天高く馬肥える秋、とは遠く、雨の多い深秋です。 でも、明らかに季節は進み、落ち着いた夜の時間が楽しみになる頃です。
二十四節気は、草木に降りた露で冷えた空気に気づく頃、寒露(10月8日)を迎えました。七十二候は、北から渡ってくる雁が列を作って飛ぶ姿が見られる鴻雁来(こうがんきたる・10月8日~12日頃)。菊の花が咲き、「菊日和」と呼ばれる澄んだ晴天が続く菊花開(きくのはなひらく・10月13日~17日頃)。夜には秋の虫が鳴き始める蟋蟀在戸(きりぎりすとにあり・10月18日~22日頃)と続きます。草木にひんやりと結ん
だ露は動植物の自然の生業を促し、秋の深まりを表す候となります。

朝晩の冷え込みが深まり、身体はゆっくりと冬支度を始めるこの時期、温度差による自律神経の乱れによるだるさや、空気の乾燥による呼吸器系の不調、消化器系の停滞による胃もたれや食欲不振、冷えによる筋肉のこわばりなどの体調不良が発生しやすくなります。食事をゆっくりとるようにする、シャワーだけでなくしっかりお風呂に浸かる、睡眠環境を整えて睡眠時間を充分にとる、などの日常生活の小さなことを大事に考えたいですね。せっかく活動的になるこの季節に、不定愁訴に悩まされ、なんとなく集中できない、というのは残念ですもの。

そんな、この季節にぴったりな精油として、バジル(Basil 学名 Ocimum basilicum L.)をお勧めします。インド原産のこの植物自体の歴史はとても古く、古代ギリシャでは「王室の植物」とされ、薬として、また香料として重用された歴史があります。バジルの語源は、ギリシャ語で「王」を表す「Basileus」に由来していると言われます。そしてアレキサンダー大王時代に地中海沿岸地域に伝わり、イギリス、アメリカへは16世紀から17世紀にかけて広く伝えられました。 日本へは江戸時代に大陸から薬草として渡来。貝原益軒『大和本草』(1709年)に「羅勒(らろく)」として記載されています。
バジル精油の香り成分には、自律神経の調整、呼吸を深くする、消化器官の働きの助け、筋肉のこわばりを緩める、気分を明晰にし、記憶力や集中力を高めるなどの働きがあるとされ、この時期の体調不良の改善に期待できます。使い方は、やはり芳香浴が最適かと思います。草の香りかと思うと次にスパイシー、でもその中のふんわりと甘い香りがなんとも幸せな気分になります。作用の強い精油ですので、すべての使い方で控えめな量にしましょう。
日本でバジルが一般的になったのは、やはりパスタでしょう。子供の頃、母がバジルの代わりに、同じシソ科のシソの葉を刻んで作ったパスタバジリコは「Spaghetti al basilico alla mamma」として、「何が食べたい?」と聞かれたらお願いする料理の一つでした。

そのシソ(学名 Perilla frutescens)の原産はヒマラヤ~ミャンマー周辺とされ、東アジア一帯に広く分布します。縄文前期の遺跡からシソの種が見つかっていて、日本固有種ではないのですが、非常に古くから使用されていたことは確かです。 現在は、海外の日本食レストラン数の増加もあり、大事な和食の芳香食材「SHISO」として世界的に流通していますが、日本から輸出されるものは高級品として扱われているそうです。かつて家庭の台所でそっと刻まれていた香り「シソ」が、今や世界の食卓で求められる日本のハーブ「SHISO」として、その香りが届いたのです。
和製ハーブ文化という言葉があります。 スパイスやハーブと言えば西洋文化など大陸の料理を想像しますが、実は日本にも古来、“香りの葉を使う文化”が存在します。シソやミョウガ、サンショ、ユズ、茶、朴(ほう)などの葉は、香りを料理や暮らしに添えるハーブとして使われます。そこには西洋のハーブと香りの成分が重なる部分があるのです。例えば、シソとバジルはどちらもリナロールを含み、サンショとローズマリーはピネン系、ユズとベルガモットはリモネンがそれぞれ共通成分とされます。その魅力に気付いた料理人やシェフたちのおかげで、和食にローズマリーや、洋食にユズなど、世界中、多岐にわたる和洋折衷の素晴らしい料理に出会えるのです。
さらに、日本人は香りを季節と結びつける民族とも言われています。季節の移ろいと香りを重ねる感性——あら、まさに五感で感じる二十四節気、この「パジャマに着替えて…」に至りました。
さすが、今夜のバジルの芳香浴のおかげ。 寝る前に、読みかけの小説の続きも読めそうです。

皆様はバジル精油の香りに何を思うでしょう。 そして、明日はどんな香りと出会えるでしょう。 どうぞぐっすりお休みください。
染谷雅子
注意:布に精油を直接つけると、精油の特性上シミになることがあります(特に柑橘系)。 必ず共布で確認し、シミになりそうな場合はサシェや別布から香りを移すなどの方法をとってください。

作品名:「フュージンググラス 帯留め 青栗 」
ガラス作家・アロマセラピスト 染谷雅子
ギャラリーはなぶさ https://www.hanabusanipponya.com/

