久しぶりの透き通る秋空に、綿を引いたような薄雲、たわわに実る隣の家の柿の実とモズの声。完璧な秋景色、やっと見られた深秋の装いです。二十四節気は霜降(そうこう・10月29日)を迎えます。七十二候は、朝の冷え込みが増し、霜が初めて降りる頃の霜始降(しもはじめてふる・10月23日~27日頃)、一雨ごとに冬を連れてくるような小雨が時折降る孁時施(こさめときどきふる・10月28日~11月1日頃)、楓や蔦が色づき山々が錦秋に染まる楓蔦黄(もみじつたきばむ・11月2日~6日頃)と続きます。霜や小雨という大気の変化は、山の情景をも晩秋から冬へと誘います。柿の実と秋空小雨が降る肌寒い日は散歩もちょっとお休みして、美味しいものでもいただきながら本を読んでいたい気分になります。夜も少し長くなり、自分の時間が増えたような心持ちになり、つい夜更かしが楽しくなる頃です。

 

そんなこの時期には、手足や足先が重く感じることがあります。これが、活動量の低下や冷えにより体の巡りがゆっくりとなり、余分な水分が滞る「むくみ」です。むくみが続くと体は温まりにくくなり、代謝のスイッチが入りにくくなります。代謝が落ちると、食事で入ってきた糖がうまく使われず体内に余り、タンパク質や脂質と結びついて変性し、体内に終末糖化産物(AGEs)という老化物質を作り出します。これが“糖化”という現象で、肌のくすみや体重増加、だるさなどを招き、血管の老化を促すことになり、深刻な症状への入り口にもなりかねないのです。

 

一般的な糖化の対処法としては、食事をゆっくりと食べて血糖値の急上昇を避けることや、軽い運動を習慣づけることが推奨されていますが、併せてホルモンを正常に働かせるために睡眠を整えることも大切です。
サイプレス

晩秋に感じやすい不調の中にそっと潜む、糖化の原因にさえなりかねない「むくみ」。 その対処に寄り添う精油が、地中海沿岸原産のサイプレス(Cypress 学名 Cupressus sempervirens)と、ヨーロッパ・中央アジア原産のジュニパー(Juniper berry 学名 Juniperus communis)です。いずれも古代ギリシャやローマでは神事や浄化に使われていました。サイプレスは棺や神殿の建材として使用され、ジュニパーは中世ヨーロッパのペスト流行時に部屋で焚いて空気を浄化したという記録もあります。

 

ヒノキ科の植物ですので、抽出される精油からは日本人にとって馴染みのある、檜風呂や寺院、古い日本家屋の香りに通じるものがあり、杉木立の深い森で森林浴をしているような、冬へ向かう身体を軽く整える晩秋にぴったりの香りです。
ジュニパー
一番のお勧めは、やはりマッサージです。ただ、ジュニパーもサイプレスも刺激も作用も強い精油ですので、使用には充分注意しましょう。マッサージオイルは低濃度(キャリアオイル10mlに対して1滴まで、0.5~1%濃度)で、ふくらはぎや足裏など皮膚の強い部分に限定し、長時間・長期間の使用は避けましょう。ふくらはぎを下から膝裏まで優しくマッサージすることで、全身の水分代謝を助ける働きが期待できます。寝る前の足裏マッサージも好きです。アロマオイルと足のセルフケアアロマセラピーの取り入れ方としては、室内の芳香浴や蒸気吸入、バスオイルとしての利用などがありますが、こちらも量は控えめにして短時間で使用するようにしましょう。ゼラニウムやローズウッド、ラヴェンダーなどとのブレンドも秋らしく、香りも穏やかになります。ぜひ、この深秋の森林浴をお試しください。

 

毎年必ずこの季節に思い出すのは、祖母のおむすびです。祖母のおむすびはしっかり固めの、ぴょんと尖った三角形で、少し硬めに握られているのだけれど、口にするとほろりとほどけて、新米のお米の香りと酸っぱくてしょっぱい梅干しとの味加減も絶妙でした。紅葉狩りや栗拾い、梨狩りに行く日の朝には、母と並んでたくさんのおにぎりを握っていたことを思い出します。時々作ってくれる焼きおにぎりがこれまた絶品でした。三角の面に刷毛でさっと塗ったたまり醤油と、たっぷりと塗った胡麻油で焼き目を付けた焼きおにぎりは、妹と競って食べた祖母の味でした。おばあちゃんの焼きおにぎり代謝の良かった子供の頃のことで、笑って思い出せる話ですが、今考えると怖いですね。糖化が気になる歳になり、胡麻油たっぷりの醤油味焼きおにぎりを食べ競うなんて。そう、美味しいものは糖と油でできているのです。食欲の秋を謳歌するのもほどほどにいたしましょうか。

 

さて、秋の夜長、傍らにはジャパニーズジンの炭酸割り。そうそう、ジンの香りづけも実はジュニパーベリーなのです。あの爽やかで、きりっとした芯のあるハーブのような、なるほど森の香り——ジュニパーです。最近、日本のクラフトジンは新しい産業として急成長しています。国内に93の蒸留所があり、なんと161もの銘柄にジュニパーベリーの使用が記されています。さらに、柚子や山椒、緑茶、紫蘇などの「和の香り」を重ね、独自のボタニカルジンが開発され、新しい日本の酒文化として定着しつつあります。ジンの炭酸割りと秋の夜長森の精油、ジュニパーの香りを想いつつ、飲み終わったら寝ましょうか。 皆様はサイプレスやジュニパー精油の香りに何を思うでしょう。 そして、明日はどんな香りと出会えるでしょう。 どうぞぐっすりお休みください。

 

染谷雅子

 

注意:布に精油を直接つけると、精油の特性上シミになることがあります(特に柑橘系)。必ず共布で確認し、シミになりそうな場合はサシェや別布から香りを移すなどの方法をとってください。

 

 

 

ステンドグラス キャンドルホルダー
作品名:「ステンドグラス キャンドルホルダー 」

ガラス作家・アロマセラピスト 染谷雅子

ギャラリーはなぶさ https://www.hanabusanipponya.com/