暦の上ではすでに秋。過ぎた夏は今年も、愛おしく、激しく、時に残酷な表情も見せながら駆け抜けてゆきました。

夏始め、芒種の頃。小さな初夏の命のきらめきをそっと知らせながら、田の緑は静かに濃さを増し、麦の穂は風に揺れました。夏至には昼の光がいちばん長くなり、季節の背骨をまっすぐに伸ばすように夏の花々が咲き誇りました。

やがて梅雨も明け、小暑大暑へと移り行き、大気も大地もすべてが厳しい夏の重さを抱えました。それは立秋が来ても続き、その中で時々吹くそよ風や虫の声は、迎える秋の遠さを感じさせました。処暑になり、残暑はあるものの暑さの峠は鎮まるようにも見え、実りの準備や大地の火照りも収まり、季節の衣替えはそっと進んでいるようです。

と同時に、夏の空気と秋の空気が混ざる大気の変化は著しく、自然の慟哭に翻弄され、災害となることもしばしば。自然への畏怖を感じます。

そして今、二十四節気は、夜の冷え込みで草木に露を結ぶ、白露(はくろ/9月7日)を迎えようとしています。七十二候は、草に降りた露が白く光る頃の草露白(くさのつゆしろし/9月7日〜11日頃)、秋を告げる鳥・セキレイが澄んだ声で鳴き始める鶺鴒鳴(せきれいなく/9月12日〜16日頃)、春に来たツバメが南へ帰っていく玄鳥去(つばめさる/9月17日〜22日頃)と続きます。

日中の暑さは残るものの、朝晩の空気がひんやりしはじめ、行く夏を惜しむ心持ちと秋の気配がそっと重なり合う季節です。

昼夜の寒暖差が大きくなるこの時期、その温度差が体に与える影響は侮れません。暑さで拡張した血管は、夜の冷えや冷房の冷えで急速に縮みます。その繰り返しが自律神経を過剰に働かせ、結果として疲労、痛み、だるさなどが出やすくなります。放置すると、高血圧の悪化、心臓への負担による動悸・息切れ、免疫力の低下、精神的な不調などにつながる可能性があります。

昼間、出かける頃にはまだ太陽も高く暑さもあり、つい薄着で出かけてしまい、出先で夕立を見送ると、なんと涼しいこと、寒いぐらい……という経験をした方は多いと思います。私もそうです。そんな経験から、常に一枚ストールを持ち歩いています。

真夏は薄い絹のスカーフや麻のもの、また涼しげな色の細綿でレースがあしらわれたものなど、首元を覆えるくらいの軽い布をバッグに忍ばせます。秋口には少し厚めの絹や綿のものを、色も少し深い秋色に。さらに秋が深まれば、大判の綿やウールのものへと、季節により選ぶことも一興です。

小さい頃から、布一枚——ハンカチはもちろんですが、スカーフを持ち歩く習慣があります。一番古い思い出は、赤色に白い水玉のシフォンのネッカチーフ。よほど気に入っていたのでしょう。三歳ぐらいから幼稚園の頃までの写真には、そのチーフがたびたび登場しています。あの頃は正方形の布を対角線に折り、三角形の長辺を顎下で結ぶという使い方でした。また、大人の女性は海外映画スターや、一世を風靡した「まちこ巻」など、季節に関わらずスカーフを楽しんでいたように思います。

そしてそのスカーフに精油を一滴、忍ばせます。この季節、真夏から残暑の時期の精油はこれで決まり。スペアミント(Spearmint/学名 Mentha spicata)です。同じくペパーミント(Peppermint/学名 Mentha × piperita)もおすすめ。どちらも大好きで、枕元に必ず置く精油のひとつです。

ミント系の精油はひんやりとした清涼感があり、涼風が通るような冷たさを感じさせます。頭をクリアにする香りでもあり、集中力を高め、ぼんやりした感覚を晴らすと言われます。また呼吸を深くする感覚があり、浅くなりがちな呼吸を整えてくれる香りです。一般的な民間療法としては、消化器系の不調に使用されてきました。まさに「夏の疲れ」に寄り添う精油です。

ミント系にはもう一つ、日本で独自に発展したハッカ(Japanese Mint/学名 Mentha arvensis)があります。日本の固有種ではありませんが、江戸〜明治にかけて北海道や東北で盛んに栽培され、現在では世界最高レベルのメントール含有量を持つ品種が育てられています。凛とした香りは、日本の蒸し暑い空気をすーっと切り開いてくれるようです。

そこにもう一滴、レモン(Lemon/学名 Citrus limon)やベルガモット(Bergamot/学名 Citrus bergamia)などの柑橘系の精油を。太陽の光をそのまま閉じ込めたような明るさのある香りは心の緊張を緩め、気持ちを整える印象があります。軽やかな清涼感は深い呼吸を自然に導き、消化器系の不調にも寄り添う香りです。

ミント系と柑橘系の精油はどちらも他の精油とブレンドしやすく、香りのバランスを取りやすい精油ですので、アロマセラピー生活に欠かせない存在です。ミントの風と柑橘の光を重ねると、昼の暑さと夜の冷えが交差する初秋のこの時期に、心と体の温度を静かに整えてくれます。この時期を心地よく過ごすため、ぜひミント系や柑橘系の精油の中からお好みの香りを探してみてください。

さあ、お好みのスカーフやストールにこっそり一滴、もう一滴。レモンミントの香りをひそめ、この残暑を涼やかに飛び越え、来る深秋を楽しみに迎えましょう。

そして、おまけにもう一つ。お休みの前、あなたのパジャマの胸元に精油を一滴。健やかな一日を目指し、良い眠りに導かれるよう、精油の力を借りてみてはいかがでしょう。

白露の頃になると、肌が求める布の質感も少しずつ変わってきます。さらりとした綿、空気を含むガーゼ、とろみのあるテンセルなど……。パジャマに着替える時間が、季節の移ろいをいちばん近くで感じる瞬間になります。

皆様はミントや柑橘の精油の香りに何を思うでしょう。 そして、明日はどんな香りと出会えるでしょう。 どうぞぐっすりお休みください。

染谷雅子

 

 

注意:布に精油を直接つけると、精油の特性上シミになることがあります(特に柑橘系)。必ず、共布で確認し、シミになりそうな場合はサシェや別布から香りを移すなどの方法をとってください。

ガラス作家・アロマセラピスト 染谷雅子

ギャラリーはなぶさ https://www.hanabusanipponya.com

作品名:「ステンドグラス 風鈴