パジャマに着替えて…梅に鶯

2024.02.08

パジャマに着替えて…梅に鶯

春の始まり、立春(りっしゅん)を2月4日に迎えていますが、春とは名ばかりで、冷たい雪に、また肩をすぼめる午後です。
そんな寒さの中でも、摂理は確実に新しい季節を指し示し、また、芽生えの季節が巡ってきました。四回目の春を迎えるこのコラム、新しい日々も暦を辿って、日々の暮らしに目を向けて、皆様と一緒に新しい景色を探したいと思います。引き続き、どうぞよろしくお願いいたします。

七十二候は、東風解凍(はるかぜこおりをとく2月4日~8日頃)、黄鶯哯晥(うぐいすなく2月9日~13日頃)、魚上氷(うおこおりをいずる2月14~18日)と続きます。東から吹く暖かい風は氷を解かし、山では鶯が鳴き始め、川や湖では氷の割れ目から春を知る魚が跳ねる、そんな、春、始まり、その胎動のような候となります。 湖 新しい春には、新しいことが始まりそうな予感。新しい自分で挑みたいと思います。寒さで血液循環が悪くなり、冬の間に身体にたまってしまった老廃物を、暖かくなり、新陳代謝が良くなることで燃焼しやすくなるこの時期に、排出しましょう。食事と運動を組み合わせて、まずは、寒さ残る空気の中、春を探しに散歩しましょう。 散歩 冷たい風に肩をすぼめて歩いていれば、その体のこわばりを解かすかのような、美しい香り。思わず振り向けば、低い冬の空を背に、飴細工のようにつややかな黄金色の花満開となる蝋梅(ろうばい)の樹が佇んでいました。思わず、その梅独特の、天を目指す枝ぶりに立ち寄り深呼吸をしました。

始まるな。

まだまだ寒さは残るけれど、その香りは私の中に春を連れてきます。目を覚まさせられたように、気づかなかった春が目に入ります。最初の花が黄色く咲いているレンギョウの木、大きく膨らんでいるふわふわと産毛(うぶげ)のモクレンの蕾、群生しているスイセンの花、緑が濃くなったタンポポの葉っぱ…。 蝋梅 蝋梅に続き、白梅、紅梅と、短い間に春を連れてくる梅、この花は桜と並び、日本人の生活に古くから結びつきが深い春の花です。平安時代の太宰府天満宮の飛梅伝説など、多くの梅にまつわる伝説が残っています。また諺にも多く登場します。「梅と桜を両手に持つ」は、良いことに出会い、さらに良いことが起きるという意味。「梅に鶯」は、取り合わせが良く、美しく調和することを意味し、「梅は蕾より香りあり」は、才能のあるものは早くからその能力が現れるという意味で、いずれも佳き物をさらに称えるような美しい諺です。
花や香りを愛でるだけではなく、梅干しや梅酒、煎り酒、梅びしおなど食品や嗜好品、または調味料としても古くから日本人の生活に深くかかわり続けているものです。

さらに、文学、絵画、音楽、歌舞伎、浮世絵、着物柄や家紋の意匠に至るまで、長い歴史と日本文化を支える素材の一つとして、梅は大事に継がれてきた代表的な花の一つです。 梅 大好きな梅の絵画2点。

ひとつは日本女性画家の歴史を切り開いた一人、小倉遊亀の描く梅の絵。絵を観ているだけで梅の香りを感じるようで、小倉の絵を知る入口になったものです。もう一つは、江戸時代中期の浮世絵師、鈴木晴信が描いた、「夜の梅」。黒一色で表された夜の空気の中に散る薄紅色の梅の花、それを愛でる灯篭を持ち上げる女性の清楚さ。初めて見た時、まさに馥郁(ふくいく)たる香漂うその画面に目を奪われました。こちらも晴信を追いかける最初の頃に衝撃を受けた梅の花です。 梅の花 なにより、令和の世、この元号の文字は万葉集巻五に収録された梅花の歌の「序」から引かれたもの。日本文化の古くから人々に愛された梅、まさに、今、梅の時代に生きている私たち、なんとなく、嬉しい心持ちです。

 

ほんの数週間の春の兆しの花の舞、今年も、その梅の姿と香りを楽しみたいと思います。お供は、羊羹「夜の梅」? 羊羹 梅見散歩の予定をたてながら、そろそろ眠りにつきたいと思います。

皆様、今夜も、ぐっすりお休みください。

 

染谷雅子

ガラス作家・アロマセラピスト 染谷雅子
ギャラリーはなぶさ https://www.hanabusanipponya.com
作品名:フュージンググラスの帯留め「夜の梅」

染谷雅子のガラス作品「(作品名)」

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