小春日和という言葉がぴったりの夕方までぽかぽかしている日があれば、太陽が全く顔を出さず、洗濯物も冷たく乾ききらないような寒い日もあり、まさに、本格的な冬への入り口にいます。
二十四節気は、地域によっては雪がちらつく頃、小雪(しょうせつ11月22日)を迎えようとしています。七十二候は、空気が乾燥し雨あがりの虹を目にすることが少なくなる頃、虹蔵不見(にじかくれてみえず11月22から26日頃)、強く吹く北風が木の葉を払い落ち葉が散り積もる頃、朔風払葉(きたかぜこのはをはらう11月27日~12月1日)、常緑樹のタチバナの実が黄色く色づく頃、橘始黄(たちばなはじめてきばむ12月2日~12月6日頃)、と続きます。すっかり冬へと移行した大気は冷たく乾燥した冬の厳しさを予告するようですが、目に映るミカンの黄色にほっと心が温まる、そんな初冬の空気を表す候となります。

寒さの厳しい日と暖かい日を繰り返しながら、冬が深くなるこの頃、その変化に対応しようと体温を調整するためのエネルギー消費は激しくなります。それに伴い自律神経の均衡が崩れて乱れやすくなるため、体調の細かい変化に気を付けて過ごしましょう。睡眠、食事、そして、寒くても身体を動かす、という、基本の習慣で体力を温存しましょう。
旬の食材としては、ハクサイ、ナガネギ、ホウレンソウなどの野菜、サケ、ブリ、タラ、タラバガニ、カキなどの魚介類などで、ますます鍋の美味しい季節。食材や出汁の組み合わせで無限に楽しめますし、体も暖まります。
おやつにはナッツ類をお勧めします。クルミはいかがでしょう。旬は9月から10月にかけてですが、殻付きのクルミは保存もききますので、クルミの殻をむきながら長い夜を過ごすのも一興では?小さい頃、寒い日のおやつに作ってもらった「くるみミルク」(我が家ではこう呼んでいました)は、剥いたクルミを丁寧にすり鉢であたって牛乳を加え、砂糖を入れて温めるもの。渡されたカップを両手で包むと手のひらに伝わる暖かさ、口に含むと甘くこっくりとした喉越しとクルミの香りがふんわり鼻に抜けて、冷えた身体の緊張が溶けるよう。滑らかになった口は、冷たい風のなかで走り回った午後の物語を母におしゃべりする、そんな初冬の日暮れ前を思い出します。

気付けば、街はクリスマスのイルミネーション。クリスマスツリーには赤いリボンが飾られ、キラキラとガラスボールが光ります。毎年思いますが、この時期の雰囲気が大好きです。ワクワクします。そんなワクワクのこの季節と言えば…、バレエ「くるみ割り人形」です。
バレエ曲が続きますが、この「くるみ割り人形」も現代バレエ文化の楚となる作品の一つです。ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー(Pyotr Ilyich Tchaikovsky1840‐1893ロシア帝国)により作曲され、1892年に初演されました。物語はE.T.A.ホフマンの童話『くるみ割り人形とねずみの王様』を基にしたもので、クリスマスの夜を舞台にした夢と魔法の物語で、幻想的な想像の世界と現実の少女の成長を描いたものです。すでに彼が成功を収めていた「眠れる森の美女」、「白鳥の湖」に続く作品でしたが、当初、バレエとしての評価は高いものではありませんでした。その後、チャイコフスキー自身が編纂した「くるみ割り人形組曲」が大成功を収め、バレエ本編よりも先に広く演奏されるようになります。その後、20世紀中盤以降の再演や再構成による演出の刷新と、アメリカを中心としたクリスマス文化との結びつきにより、現在に至り、『くるみ割り人形』は世界的に愛されるバレエ作品となったのです。

バレエもオペラなどと共に総合芸術作品と言えます。物語を音楽と舞踊によって表現する、そこに様々な文化要素が集結します。幻想的で情緒的な音楽の煌びやかさだけではなく、衣装や舞台、バレエの技術や表現などが組み合わさり感動が導き出されるのです。さらには、高度な舞踊技術だけではなく、言葉を使うことなく、マイムや音楽に合った全身の動きでその役の性格や内面をも表現します。
物語が始まり、音楽に合わせて主人公である少女が出会う様々な人々や出来事が華やかに展開され、感動的な音楽と共にめくるめく夢とも真ともつかぬ想像世界を過ごした一夜が明けた時、それを見守った観客の私たちは、明らかに成長を遂げて、大人の一歩を進む主人公クララと出会うのです。その細かい所作や表現の違いを紡ぎだせるのは、やはり芸術力なのだな、と思うのです。この感動、ぜひ、クリスマスにそんな体験を!
私のくるみ割り人形もそろそろ出してあげなくちゃね。くるみ割り人形組曲を聴きながら、クリスマスや年末年始のことも考え始める冬の夜です。
今日も眠りにつくとき、目覚めるとき、素敵な音が聴こえますように。
みなさま、ぐっすりお休みください。
染谷雅子

ガラス作家・アロマセラピスト 染谷雅子
ギャラリーはなぶさ https://www.hanabusanipponya.com
作品名:ステンドグラス「ランプ」

