雨が降るたびに、土の匂いや石の匂い、草の匂いが濃くなり、緑が深まるこの季節。二十四節気は穀雨(こくう・4月19日頃)を迎えようとしています。七十二候は、水辺に葭の若芽が立ち上がる頃の「葭始生(あしはじめてしょうず・4月19日~23日頃)」、霜が降りなくなり苗がすくすく育ち始める「霜止出苗(しもやんでなえいず・4月24日~28日頃)」、そして牡丹の花が豪奢に咲く「牡丹華(ぼたんはなさく・4月29日~5月4日頃)」と続きます。「百穀を潤す雨」として種まきの季節を支えるやわらかな春雨は、夏を控えて成長の時を迎えようとしている植物たちに命を与えるのです。そんな、春最後の景色を描きます。

 

外の世界は芽吹きに満ち、夏の準備へと向かう“発散”の時ですが、私たちの身体は少し重くなりやすい季節です。この時期は湿度が上がり、気圧が不安定になり、気温差も残るという“揺らぎ”が重なります。特に女性は、自律神経やホルモンバランス、水分代謝の影響を受けやすく、季節の変化が体調に表れやすくなります。湿度が高くなると体内の水分代謝が滞りやすく、むくみやだるさが出やすくなります。軽いストレッチや散歩で「巡り」を促したり、温かい飲み物で内側を温めたりすることが助けになります。また、湿度は高いのに体が追いつかず、肌の内側が乾燥していることもあるため、洗顔と保湿を丁寧にしつつ、軽めのケアに切り替えるなどの調整が鍵となります。

新玉ねぎのスープ

もちろん、食事も大切です。引き続き春野菜の美味しさはありがたく、春キャベツや新玉ねぎの蒸し野菜サラダやスープは簡単で心強い味方。最近は旬のアスパラガスの“洋風白和え”が我が家の食卓によく登場します。豆腐をオリーブオイル、ビネガー、塩・こしょうと一緒にミキサーにかけ、マヨネーズ代わりに使います。お好みでカレーパウダーを入れたり、醤油味にしたり、いろいろ楽しめます。私は最後にみじん切りの茹で卵を入れて“ベルギー風”(勝手にそう名付けています)にするのがお気に入りです。ぜひ、お試しください。

精油用のゼラニウム品種

そんな季節の間で、季節と自分、気持ちと身体……さまざまな均衡を取りにくい時にぴったりの精油が、ゼラニウム(Pelargonium graveolens)です。大好きな香りです。多分、一番好き。園芸品種としてよく見るゼラニウム(Geranium)とは別属で、テンジクアオイ属に分類されますが、その香りは、ピンク色やオレンジ色で可憐に咲く園芸品種のゼラニウムとどこか似ています。南アフリカのケープ地方が原産で、乾燥した大地と強い日差しの下で育ち、香りの強い葉を発達させた植物です。17世紀に南アフリカを訪れたヨーロッパの探検家や植物学者が持ち帰り、特にイギリスやフランスで人気が高まりました。18~19世紀には香料植物としての価値が注目され、フランス、特にグラースで精油生産が始まりました。高価なローズに似た香りの特性を持つため、ローズの代替として香水産業で重宝され、現在でも多くの香水に使われています。日本には江戸時代後期から明治初期にかけてオランダ経由の舶来植物として渡来し、明治以降は園芸植物として広まり、香りの強い品種は「匂いゼラニウム」として親しまれています。

ゼラニウム精油

ゼラニウムの精油は、心身の均衡を整え、恒常性を保つ助けになる香りとして扱われます。特に女性の揺らぎの時期に寄り添う香りとして知られています。香りを楽しむのはもちろん、肌や髪を健やかに保つ目的で使われることもあります。

 

さて、ここでアロマセラピーの実際のセラピー内容を少し紹介します。日本では正式な医療としては認可されていませんが、フランスやイギリスでは医療として認められています。セラピーの流れは症状によって異なりますが、コンサルテーションの後、マッサージが中心となります。セルフケアではマッサージは難しいと思いますので、香りを楽しむことを中心に取り入れましょう。ただし、精油はとても強い作用を持つものです。肌に直接使うことは絶対に避けてください。キャリアオイルとしてホホバオイル(Jojoba oil)などを使い、フェイスケアの精油濃度は0.5%、ボディケアは1~3%を目安にしてください。精油1滴は約0.05mlとして扱いますので、20mlの基材(キャリアオイル)に対して、フェイシャル用は精油2~3滴、ボディ用は精油4~12滴が目安となります。この濃度を守り、まずはヘアケアやネイルケア、ハンドケアに取り入れることをおすすめします。
さて、ゼラニウムのことをもう少し。子どもの頃、我が家の猫の額ほどの庭は、まさに母の絵具パレットでした。季節の花が咲き、梅の実が実り、私たちはそこで季節の移ろいを知り、楽しむ場でした。その中でもゼラニウムは重要な役回りでした。季節の変化にも強いこの植物は、葉の濃い緑とくっきりとした花色の対比が魅力的で、あの葉っぱの香りが漂い、花が咲き始めると「夏が来るなあ」と思うのでした。

赤いゼラニウム

少し大人になってからのこと。駅までの道にある床屋さんの入り口の花壇に赤いゼラニウムの鉢が置かれていて、その大きな花房と元気な葉の勢いに、つい挨拶をしたくなるような気持ちになったのです。その後もそのゼラニウムはいつもよく手入れされていて、気づくと鉢が大きくなり、また大きくなり……植物の成長のなんと健やかなことかと思いました。しばらくその道を通らなくなり、何年ぶりかに出会った床屋さんのゼラニウムは、私の背丈ほどになっていて、相変わらずきれいな緋色の花を咲かせ、濃い緑のビロードのような葉は見事に繁っていました。見ると丁寧に添え木がしてあり、なんと地植えになっていました。ゼラニウムって、こんなに大きくなるのね……。きっと、あの子は元気にもりもり育って鉢が追いつかなくなり、地植えにしてもらったのでしょう。ゼラニウムの精油の香りは、使うたびにあの誇らしげな姿を思い出させるのです。

染谷雅子

 

ガラス作家・アロマセラピスト 染谷雅子

ギャラリーはなぶさ https://www.hanabusanipponya.com

作品名:「ステンドグラス、フュージングクラス さくらペンダント]