春のおとずれ、新しい暦が始まりました。

二十四節気は立春(りっしゅん24)を迎えました。七十二候は、東風解凍(はるかぜこおりをとく2/42/8)、黄鶯睍睆(うぐいすなく2/92/13)、魚上水(うおこおりをいずる2/142/17)と続きます。

一年でいちばん寒い時季のさなかで、ふと空気の底にやわらかな気配が混じり始め、凍った土の奥では水がゆるみ、東から吹く風に少し勇気をもらった命が動き出す、そんな頃です。

生姜、ネギなど冬の旬のものが入った汁もの

立春のころは、暦の上では春でも、体はまだ「冬のモード」を引きずっています。そのため、季節の変わり目ならではの不調が出やすい時期です。寒暖差で体が疲れやすいことから、自律神経が乱れやすくなり、冷えが残り、血流が滞りやすくなります。更に、アレルギーのある方には花粉の影響も出始める頃。早寝早起き、質の良い睡眠、軽いストレッチなどで体のリズムを整えることが大事です。
食事でもしっかり補いましょう。体に残ってしまう冷えを温めるには、ショウガやネギ、新ゴボウなど、引き続き、旬の食材を使った暖かい汁ものが最適です。春に向けて体の巡りを良くする食材としては、ナノハナ、シュンギク、セリ、ミツバ、フキノトウなど、ほろ苦さや香りが春の「目覚め」を助けてくれます。柑橘類の果物なども効果的です。

大切なことは、ゆっくりと冬から春の食卓へ切り替えることです。立春は自然も私たちの体も、冬から春へと向きを変える時なのです。冬の名残を感じながら、少しずつ春へ移すことで体への負担も軽減されます。

春の小さく黄色い花をつけたロウバイ

春の始まり、ふと漂う香りに、思わず振り向くことがあります。先日も冷たい空気のなか、声をかけられたかと思うほどはっきりと届いた、ふくよかな香りは、すっくと立つ木枝に蝋細工のように繊細で半透明な黄色い花びらをつけた蝋梅の木でした。とっさに、春を受け取ったような感じがしました。

匂いには特別な効果があります。それは、他の感覚とは違って、直接、大脳辺縁系にその信号は伝わるからなのです。だから、匂いによって、過去の出来事や季節の変化、感情などが急に思い起こされることがあるのです。

 

さあ、季節の移ろいを聴覚で感じた昨年から、新しい暦は別の感覚、嗅覚に焦点を当てることで、“香り”という、目には見えないけれど確かに存在する小さな気配を感じながら二十四節気を巡りましょう。

 

アロマセラピーは、植物が長い時間をかけて蓄えた香りのエッセンス、精油(エッセンシャルオイル)を用いて、心と身体の調子を整える自然療法です。花、葉、果皮、樹脂、木部。植物のどの部分から抽出されたものかによって、その表情は驚くほど違います。

精油の特徴や優しい使い方を紹介してゆきましょう。

ラベンダーの精油

ラベンダー(Lavandula angustifoliaLavandula officinalis)はこの微妙な揺らぎの季節に、静かな整えをもたらす精油として最適です。花、葉、全草から抽出される精油は、緊張をほどき、深い呼吸を促し、穏やかな導眠効果があることで知られています。痛みを抑える作用や炎症を抑える作用も期待されます。また、肌を穏やかに整える作用を利用して、化粧品などにも多く使われている精油です。アロマセラピーでも基本で使う、最初の精油です。

お勧めの利用方法は、足浴や手浴です。お風呂で使用することもできますが、もっと短い時間で手軽に取り入れられます。洗面器などの容器に、38℃~40℃ぬるめのお風呂ぐらいのお湯を張り、そこに、23滴の精油を入れて、軽くかき混ぜ、手や足を浸します。気持ちをゆったり持って、ラベンダーの香りを深く吸い込みながら、穏やかな時間を過ごしてください。短い時間でも体まで暖まり、特に、朝起きた時や寒い戸外から帰ってきたときなど、血管を拡張し血流が戻り、体の冷えや筋肉のこわばりも緩むはずです。

北海道 札幌市 幌見峠のラベンダー畑

ラベンダーの香りは、はるか昔から人々の暮らしのそばにありました。古代ローマでは、入浴の湯に花を浮かべ、身体と心を整えるために使われていたといわれます。「洗う」を意味するラテン語lavareに由来する名を持つのも、その習慣の名残です。中世の修道院では、薬草として庭に植えられ、傷の手当てや、部屋の空気を清めるために重宝されました。旅人の荷物に忍ばせるお守りのような役割を果たした時代もあります。香りは、清らかさと安らぎの象徴として、人々の記憶に刻まれてきました。やがて近代になると、ラベンダーは南フランスの陽光の下で大規模に栽培され、香水産業の重要な原料となります。

ラベンダーが日本に本格的に根づいたのは、それほど古い話ではなく、昭和のはじめ、北海道の富良野や上富良野に苗が持ち込まれ、冷涼で乾いた気候がこの植物に合ったことで、紫の丘が少しずつ広がりはじめました。当初は香料作物としての栽培が目的で、香水や石けんの原料として使われました。時代が進むにつれ、ラベンダーは「香りのための植物」から、「風景をつくる植物」へと役割を変えていきます。夏の北海道を彩る紫の花畑は、観光の象徴となり、今では日本の季節風景のひとつとして親しまれています。

 

そんなラベンダー、私は祖父のことを思い出すのです。幼い頃、祖父母の家へ遊びに行き、休みの日の朝、祖父の布団に潜り込みおしゃべりをすることが楽しみでした。きっと、祖父の整髪剤にラベンダーが使われていたのでしょう。今でも、ラベンダーを使う度に、温かい布団の中での祖父との時間をふっと思うのです。

 

ようこそ、香りの世界へ。皆様はラベンダーの香りに何を思い出すでしょう?

明日はどんな香りと出会えるでしょう。どうぞぐっすりお休みください。

 

染谷雅子

 

ガラス作家・アロマセラピスト 染谷雅子

ギャラリーはなぶさ https://www.hanabusanipponya.com

作品名:「 フュージンググラス バレッタ 」