花屋の店先にはシクラメンやポインセチアの生き生きとした花びらがぴんと張った鉢が並び、冷たい冬の風が撫でてゆきます。
二十四節気は、降雪地帯では雪が強まり、本格的な冬が始まる頃、大雪(たいせつ12月7日)を迎えます。七十二候は、冬らしい寒さが本格化し、空は重い雲に覆われ、生き物は活動を控える頃、閉塞成冬(そらさむくふゆとなる12月7日~11日頃)、熊が冬眠に入り、穴にこもり、蛙やコウモリなども冬ごもりを始める頃、熊蟄穴(くまあなにこもる12月12日~16日頃)、北国の冬を象徴する光景、鮭が産卵のために川を遡上する頃、鱖魚群(さけのうおむらがる12月17日~21日頃)、と続きます。本格的な冬が始まる合図として、雪はさらに強まるなかでも、自然界の営みは淡々と繋がるさまを表す候となります。

師走に入ると「正月事始め」と言って、新年の準備を始める時期、とされています。なんとなく慌ただしい気持ちを持ちつつ、寒さは冬の底へと向かい、厳しくなる時です。手足の冷えや体温低下による免疫力の低下が起こりやすく、重ね着やカイロの使用、温かい飲み物で身体を温めるように、特に首、手首、足首を冷やさないようにしましょう。
食事も身体を温める物を選びます。この時期に旬を迎える食材は、ダイコンやカブなどの根菜、ハクサイやコマツナなどの葉物です。豆乳を使ったハクサイと鶏肉のグラタン。それに添えて、カブとミカンのレモンドレッシング和え、などいかがでしょう。ハクサイで腸内環境を整え、鶏肉と豆乳で免疫力を上げ、ビタミンⅭで風邪も予防しましょう。他にも栄養豊かな根菜類を使って、鍋料理や煮込み料理が体調不良の予防や改善を期待できます。ぜひ、お試しください。

毎年、街中に飾られる華やかなクリスマスツリーやリースは、今年も早くもこの季節になったことを気づかせてくれます。我が家でもこの時期すっかり恒例となった、プレゼント選びやクリスマスケーキや料理の準備など、ワクワクする毎日です。そして、音楽でこの時期の恒例、と言えば、「第九」です。
ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン(Ludwig van Beethoven、1770-1829ドイツ)により作曲された交響曲第9番は、1824年に完成し、同年5月7日にウィーンで初演されました。この頃のベートーヴェンはすでに聴覚をほぼ完全に失っており、音を直接聞くことはできませんでした。また、難聴に加え、慢性的な消化器系の病気や体調不良にも悩まされていて、難聴を抱えながらの孤独な生活の中で、音楽への愛は衰えず創作を続けていた、そんな状況下で作られた作品です。いわば、音楽理論と想像力、音楽的才能、そして、なにより音楽への強く熱い情熱で、彼の頭の中で作られた作品であるということです。聴こえないのですから、頭の中にある音を譜面に置く、ということなのでしょうか…。すごいなー、と思います。その、力。理想の音を作り上げたわけですから。だからあんなに強力な引力というか、魅力のある曲なのでしょう。
初演時の終演後ベートーヴェン自身が舞台に立ちましたが、聴力を失っていたため観客の喝采に気づかず、指揮者や歌手が彼を振り向かせて観客の熱狂を見せたという有名な逸話があります。
4楽章構成のこの交響曲は、1楽章から3楽章までで、提示されたテーマを最終楽章で新たな方向性へと導き、シラーの詩「歓喜に寄す」に基づく合唱が加わり、人類愛や平和を歌い上げるのです。この苦悩から歓喜へという流れがベートーヴェンの理念を象徴しているとされ、クラシック音楽史に革命をもたらしたのです。

この「第九」、年末に好んで演奏されるのは日本だけなのです。日本での初演は1918年、第一次世界大戦の徳島の捕虜収容所で捕虜となったドイツ兵により演奏されました。その後、NHK交響楽団の前身「新交響楽団」が初めて演奏。そして、オーケストラが有名なこの曲で財政難を乗り越えるために、年末に「第九」を演奏する習慣が広まったそうです。背景には、「苦悩を乗り越えて歓喜へ」という第九のテーマが、戦後復興を目指す日本人の心情に強く響いたということもあったようです。現在は一般市民も「歓喜の歌」を歌うという文化が根付き、全国で多くの公演やテレビ、ラジオ放送が行われ、日本独自の年末文化として定着しているようです。
聴くのも弾くのも本当にエネルギーが必要な曲ですが、やはり、元気をもらえる曲です。今年もまた、あちらこちらで耳にすることでしょう。平和と愛に満ちた未来を祈り、聴こうと思います。皆様も、ぜひ。
今日も眠りにつくとき、目覚めるとき、素敵な音が聴こえますように。
みなさま、ぐっすりお休みください。
染谷雅子

ガラス作家・アロマセラピスト 染谷雅子
ギャラリーはなぶさ https://www.hanabusanipponya.com
作品名:ステンドグラス「天使のピアス」

