夕焼けが見えたと思うとあっという間にとっぷりと日は落ちて…、つるべ落としの秋の夕暮れ、などと独り言を言っている間に冬が戸口に立ちました。

すでに木枯らしが吹く冬の始まり、二十四節気は立冬(りっとう117)を迎えます。七十二候は、枯れ木の景色の中、色を添えるサザンカの花が咲く頃、山茶始開(つばきはじめてひらく117日~11日頃)。気温が低くなり地中の水分が凍り始める頃、地始凍(ちはじめてこおる1112日~16日頃)。清らしいスイセンの花がほころび始める頃、金盞香(キンセンカさく1117日~21日頃)、と続きます。冬の到来に、日暮れは早くなり気温も下がり、大地も凍り始める時にもかかわらず、この季節を知り咲く花がある自然界の営みを表す候となります。

乾燥

この冷たい空気にさらされて、乾燥対策を確実に速やかに施さなくてはなりません。寒さの訪れが急だったため、鼻や喉、眼などの粘膜、そして皮膚、と、全身の保湿や保水を心がける必要があります。最近急に乾燥を感じませんか?加湿器などを使って室内の湿度を管理するとともに、水分補給も忘れずに。また、皮膚へは化粧水をたっぷり使って保湿します。ただ、そのままにするとその化粧水が乾くことで、さらに肌の乾燥を招いてしまうので、必ずオイルやクリームで蓋をすることを忘れずに。特に皮膚が最も薄い目の周りや、良く動かす口元には丁寧に。必要があれば専用のクリーム使います。

もちろん旬の食材を使った食事も効果的です。この時期の旬、ハクサイやホウレンソウ、ブロッコリーには粘膜の潤いを維持して、肌を健康に保つ働きのあるビタミンAや、メラニンの生成抑制作用や体内活性酸素を除去する作用があるビタミンCが豊富に含まれています。また、秋から冬に向けて旬を迎えるマグロには、オメガ3脂肪酸(DHAEPA)、タンパク質、ビタミンB群、ビタミンEが豊富に含まれています。これらの成分が肌の保護機能を高め、角化作用を促進し、抗酸化作用を発揮することで、肌の乾燥を防ぎ、健康的な状態へと導きます。旬の野菜と共に鍋料理で潤いながら暖まりましょう。ぜひ、ユズやレモンポン酢で召し上がれ。

小望月

というわけで、今日は鍋でも…、と思いハクサイ片手の買い物途中、美しい夕空に出会えました。夕焼けを反射して少しオレンジ色が混ざった空に、満月を次の日に迎える蒼く冴えた小望月(こもちづき)が、紫色の綿を薄く引いたような雲の後ろから透けて見えて、いつまでも見ていたくなるような、そして、眼をつぶるとくっきりと思い出せる美しい情景でした。夏目漱石が、当時の日本人の奥ゆかしさや、直接的な愛情表現を避ける様子を表すために、「I love you」を「月が綺麗ですね」と訳したという、日本文化の象徴として伝えられる逸話も、なるほど、愛しい人と一緒に麗しい月を見ながら、同じ方向を向きながら伝える言葉としては納得がゆくもので、というか、そんな人と一緒に月を見られたら、なんて幸せなのでしょう…、とまた妄想した夕暮れでした。

先日、友達と太陽な人と月のような人どちらでいたいか?という話になりました。太陽のように、高さこそ変われど、誠実にいつも変わらず時間を告げ、季節を告げるような人か、月のように形を変え、出る時間や場所もいつも違うけれど、その存在と導く力を持つ人、さあ、どうですか?う~ん、どうかしら?やっぱり満ち欠けを繰り返し生きてゆきたいかな、特に美しい月の夜には…。なんて思います。さて、どちらですか?

ジュリエットの家、イタリア、ベローナ

美しい月を見ると、なぜか流れる音楽が、切なさなのか美しさなのか、バレエ音楽『ロミオとジュリエット』第3幕「ロミオとジュリエットの別れ」なのです(バレエ全曲39曲目第3幕第1場、管弦楽組曲第2番第5)。セルゲイ・セルゲーエヴィチ・プロコフィエフ(Sergei Sergeyevich Prokofiev1891年4月27日 – 1953年3月5日、ロシア)により1935年に作曲されました。プロコフィエフはロシア革命の騒動のなか、日本を経由してアメリカへ亡命して活躍しますが、1936年に当時のソ連へ帰国し、この「ロミオとジュリエット」は、バレエ公演の前に、演奏会用管弦楽組曲として発表され、その後1938年にチェコスロバキア、1940年にレニングラードでバレエ全曲が発表されました。シェイクスピアの戯曲を基に台本が作られ、その悲劇がプロコフィエフの創作力や演劇的感性、卓越した作曲手法、そして高い技術力が必要とされる美しいバレエにより表現され、現代でも人気のバレエとして愛されています。

成長

プロコフィエフの若い頃の作品、ピアノ協奏曲や、ヴァイオリン協奏曲、古典交響曲など、とてもおしゃれで好きな作品です。が、実は現在、古典交響曲に格闘中で、弾くとなると難しいんだな、これが。高校生の多感な頃、このバレエを始めて見た時には、悲しい結末とそこに至る主人公たちの美しさと、子供から大人へと成長してゆく変化の表現に深く感動して涙が止まりませんでした。言葉を発することなく音楽と身体の動きだけで、シェイクスピアのこの悲劇をこんなに華麗な物語として饒舌に表現できるという、バレエ芸術そのものに驚き、心に深く残る作品となりました。

 

 

プロコフィエフは亡命時に日本に数か月滞在して、演奏もしたそうです。日本の文化をどのように受け止めたのでしょう。「月が綺麗ですね」と尋ねてみたい夜です。

 

今日も眠りにつくとき、目覚めるとき、素敵な音が聴こえますように。

みなさま、ぐっすりお休みください。

 

染谷雅子

 

ガラス作家・アロマセラピスト 染谷雅子

ギャラリーはなぶさ https://www.hanabusanipponya.com

作品名:「フュージンググラス リング