パジャマに着替えて…霜柱ガラス

2022.10.27

パジャマに着替えて…霜柱ガラス

小さな氷のかけらに触れたような冷たい夜気に、冬の気配を受け止める覚悟を知る、晩秋の頃となりました。二十四節気は霜降(そうこう10月23日)を迎えています。暦の上では冷え込みが深くなり、霜が降り始める頃とされています。七十二候は、霜始降(しもはじめてふる10月23日~27日頃)、霎時施(こさめときどきふる10月28日~11月1日頃)、楓蔦黄(もみじつたきばむ11月2日~6日頃)と続きます。秋深まり、木々や草の葉には砂糖をまぶしたように白く霜が降り、不安定な季節の変わり目の大気により、小雨(霎)が時折降ってはすぐにやみ、そして、カエデやツタなどは赤や黄色に色づき始め、紅葉狩りへと心誘われる。少し尖った冷たくなった空気のなかで、自然の色彩の変化を見る、そんな候となります。 草の葉と霜

この時期、日照時間が短くなり、寒さも少しずつ深くなってゆきます。冬への過渡期となり、体も心も憂鬱になりがちです。しっかり食事をして、心身の栄養を蓄えましょう。良質のたんぱく質を取り入れ、スープやシチューなどなるべく温かいものをいただき、体の中からも温めて、冷えを防ぎます。たんぱく質摂取にチーズや牛乳などを使うこともお勧めです。この時期、時々我が家で登場するのは、チーズフォンデュです。本格的に材料をそろえようとすると、億劫になりますが、少しずつ残っているプロセスチーズやナチュラルチーズを細かくおろして、牛乳を使って鍋のように仕立てると、手軽に楽しめます。チーズを絡ませる芯には、緑黄色野菜を使えば、ビタミンのバランスも良く、冬を前に身体を整えるのにはぴったりです。ぜひお試しください。

チーズフォンデュ

子供の頃、冷たい風の吹く通学の道すがら、舗装されていない道路の端の方、土の柔らかい、ふんわりと膨らんだ部分を、ここぞ!と踏んでみると、さくっ、と、ざくっ、の間ぐらいの音と共に、靴底にあたる卵の殻を踏んだような感覚の次に、靴は地面に吸い込まれ、足を持ち上げると、自分のズックの跡の淵にはキラキラと氷の粒が朝日にひかります。しゃがみ込み、つついてみれば、ほろほろと崩れる細い氷の柱達。そっとつまみあげると、あっという間に手のひらの上で溶けてしまう霜柱。いつの間にか、そんな寄り道遊びもしなくなりましたが、それは、大人になったからだけではなく、道路のほとんどはアスファルトの舗装が施され、土が露出している場所が少なくなってしまったこともあるのでしょう。まず地表面の水分が土と共に凍り、そこから、地面に含まれた水分が毛細管現象により、吸い上げられ、次々と凍って行き、柱状に形成される霜柱は、冬の華の一つです。

霜柱

仕事に必須なガラス、特に色のついていない透明なガラス越しの光は、そんな霜柱越しの陽の光を思いだします。熱で形成されるガラスと冷気により自然が作り出す霜柱や氷、比較するのは乱暴なことかもしれませんが、その純粋無垢な透明さと、そこを通過する光の屈折具合により見ることのできるプリズムの世界は、自然の物理法則に感謝したくなる、キラキラです。

ガラス

型取りの模様のついたものや、ランダムな気泡が入ったもの、また、すりガラスのような半透明なものなど、色のついていない、光の通過性が高いガラスは、電球の存在が透けて見えてしまうので、ランプ製作には本当は向かないのかもしれませんが、私はそんな素朴感さえ感じられるような、ランプが好きです。もちろん色のついたガラスも大好きですが、色があると見ることのできない透明なガラスの持つ通過光の暖かさや柔らかさが特別なのです。そんな透明ガラスは改めて焼成すると、わずかに残る気泡などにより全く違った表情を見せることがあります。でも、膨張率が違うガラスをうっかり一緒に焼成してしまったりすると、必ず、大きな口答えをするように、焼き上がりに大きなひびが入ったり、冷めるまでの間に割れてしまったりするほど、気難しいところもあります。静かな夜の作業場で、窯から期せずして聞こえる、か細い「ピキッ」というガラスの声が聞こえた時の絶望感。
でも、その規則やそれぞれの癖の様なものを知ってゆくと、ガラス達はいろいろな新しい世界や、美しい景色を見せてくれるのです。ガラスの変容は600℃以上から800℃ぐらいの間で、形を変えてゆきます。霜柱は0℃以下の世界の変容。ガラスも元々自然界の法則から生まれたもの、そのそれぞれの持つ規則で溶けた状態から個体へ変容する、そんな共通した不思議さも、私の好奇心を震わせるのです。

ガラス制作風景

と、今日もその数度の変化に翻弄されたガラス作業。外の温度は、冬準備が着々と進んでいる音が聞こえるように冷たくなり、遮るガラスの持つ部屋を守ってくれる温かさに思わず感謝をしたくなる時間となりました。
子供の頃にワクワクしながらつまみ上げた霜柱みたいな、純粋で美しく好奇心震わす作品がいつか作れたら、と思います。とりあえず、今宵、そんな夢でもみられるかしら。

ガラス窓の部屋

今夜もぐっすりお休みください。

染谷雅子

 

ガラス作家・アロマセラピスト 染谷雅子
ギャラリーはなぶさ https://www.hanabusanipponya.com

作品名:「クリアガラスのランプ」

クリアガラスのランプ1 クリアガラスのランプ2

 

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