パジャマに着替えて…「開ける扉」

2022.04.11

パジャマに着替えて…「開ける扉」

今年のサクラは、桜色が濃く、華やかな印象でした。サクラの花は、開花前の気温が低いと色は濃くなり、高いと薄くなるそうです。ここ数年、毎年桜の色が薄くなっているような気がしていたのは、桜が咲くころ、暖かく、開花も早いことが多かったという、そんな、植物と気温の微妙な関係があってのことだったのですね。今年は、冬の寒さ厳しく、春分を過ぎて雪が降るような気候でしたから、サクラも色濃く咲いたのでしょう。二十四節気は清明(せいめい4月5日)を迎えています。七十二候は玄鳥至(つばめきたる4月5日~9日頃)、鴻雁北(こうがんかえる4月10日~14日頃)、虹始見(にじはじめてあらわる4月15日~19日頃)とつづきます。万物が生き生きとしている「清浄明潔」の空気は春雨に潤い、虹がかかり、渡り鳥のツバメがやってくるのと反対に、ガンは北へ帰る頃。清々しい春の大気の変化に伴う生き物たちの営みを感じる候です。

 

春の準備を始めるために北に帰るガン

「花冷え」という言葉通り、この時期は思いのほか冷えを感じます。春の装いに心ときめくころですが、それに伴い、気づかぬうちに冷えを招いてしまいます。特に足元。足首は血管が皮膚に近いところにありますので、とても冷えやすく、さらに、ふくらはぎは第二の心臓ともいわれるほど、ポンプの役割をして、血液を循環させる大事な部分です。まずはレッグウォーマーなどを活用して、足首を冷やさないこと、そして、少しでも冷えを感じる時は、つま先立ちをして、かかとを落とす、というように、ふくらはぎを動かすちょっとした体操をするようにしましょう。

 

パジャマ屋イズム_シルクとウールのレッグアンドアームウォーマー

体の水分を動かして、解毒を促すには、ネミツバやニラ、ナノハナ、セリ、クレソン、などの旬真っ盛りの春野菜のサラダがお勧めです。お浸しも良いですが、そんな春の青野菜が安く手に入った時には、生でたっぷりお皿に盛り付け、ベーコンとちょっとニンニクをきかせた温かいドレッシングをジュッとかけた、生野菜サラダと温サラダの中間ぐらいの一皿、お勧めです。

 

春の青野菜を使った生野菜サラダと温サラダの中間ぐらいの一皿

 

新年度に入り、様々に環境が変わる春。渡り鳥達のように、新しい場所で新しい生活が始まる人も多いと思います。入社や入学、それに伴う、引っ越しなど、新しい扉を開ける機会も多くなります。「扉」(とびら)とは、開口部を閉じたり、内部と外部を遮断したりする機能を持つものですが、自分が内側にいるのか外側にいるのかで、外に出てゆくために使う扉、新しい世界に入るための扉、と、扉の景色は変わります。

開口部を閉じたり、内部と外部を遮断したりする機能を持つ扉

前回に続き、メキシコ在住時のことですが、ある時突然、扉が気になったのです。日本ではあまり気付きませんが、その家々が持つ、玄関扉の違いに、住人の主張を感じ、それから、気になる玄関扉を写真に撮るようになりました。もちろん文化や気候の違いがあるので、比較はできませんが、日本の静かな佇まいの玄関扉と比較すると、とても饒舌なのです。一般住宅だけでなく、店やホテルなどもそうです。

メキシコの装飾が入った茶色の扉

あるホテルに泊まった時のこと、コンシェルジュのテーブルにはガラスの板が置いてあるのですが、その下は実に立派な木彫りの分厚い板でした。単に派手、ということではなく、渋さの中の華麗さ。尋ねると、アンティーク扉の第二の人生(…扉生?)とのことでした。まさに、扉自身が新しい扉を開けたわけです。メキシコだけではないと思いますが、扉はアンティークとして取引されていて、新築で家を建てる時でも、扉だけはアンティークの物を使う人もいるそうです。貴重な一枚板で作られた扉を捨てることなく利用して、扉としての使用が難しくなったら、テーブルとして使ったり、壁に組み入れたりと、その古いものが持つ物語と個性を大切にする感性と習慣が沁みました。そして、なぜだか気になったメキシコの玄関扉の饒舌さは、その歴史が作ったものだったということを知りました。

メキシコの装飾が入った黒い玄関扉

今でも、ちょっと、素敵な扉に出会うと、メキシコの景色を思い出します。新しい世界に向かう時、向こうは見えず、その世界を想像しつつ、把手に手をかけながら期待と不安を抱いた、若い頃のことも思い出します。そして、自宅に戻り、家の扉を開け、安堵の気持ちに浸る時、扉の持つ力もわかるようになりました。でも、きっと、扉そのものもどんな人がここを開けるのか、閉めるのか、その扉に記憶して行くのでしょう。

メキシコの菱形の装飾が入った茶色い玄関扉

明日、また、新しい扉を開けるかもしれないけれど、とりあえず、どうぞ今夜も、ぐっすりお休みください。

染谷雅子

 

 

ガラス作家・アロマセラピスト 染谷雅子
ギャラリーはなぶさ https://www.hanabusanipponya.com

作品写真は「サクラ」

染谷雅子のガラス作品「サクラ」

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