春を迎えたはずの空気に、冬の名残が追って来て、そんな逆戻りの一日が、少しだけ胸をしんとさせます。季節はまっすぐには進まないのだと知りながら、春の心地になりかけた気持ちに、雪の白さが沁みました。

二十四節気は、雪も雨になり氷は解けて水になる頃、雨水(うすい219)を迎えます。七十二候は、土脉潤起(つちのしょううるおいおこる219日~22日頃)、霞始靆(かすみはじめてたなびく223日~27日頃)、草木萌動(そうもくめばえいずる228日~34日頃)と続きます。春の雨で潤いをもたらした大気は霞をよび、地表には生命の色が戻り始める、そんな、春の大気と命の息吹に、季節が動き出す音が聞こえてくるような候となります。

花粉症対策

雨が雪を流し、土が緩み、空気の匂いが和らぐような、そんな季節の移ろいを胸いっぱい吸い込みたくなるような時期なのに、ふいに鼻先がむずむずして、目の縁がかすかに熱を帯びることがあります。雨が降れば花粉は落ち着くはず、と思いたいのに、実はこの時期の雨は、必ずしも味方ではないようです。雨粒が花粉を地面に落としてくれる一方で、翌日、晴れ間がのぞくと、乾いた風に乗って前日よりもずっと多くの花粉が舞い上がることがあるようです。さらに、雨の日そのものも油断できません。湿気を含んだ空気の中では、花粉が水分を含み弾けて、そのためかえって症状が強く出る人もいるのだとか。また、今まで花粉症の症状がなかった人も、花粉の飛散量が多いと、発症することもあるそうです。季節の変わり目の身体は正直で、小さな刺激にも敏感に反応してしまうのです。

だからこの季節は、ほんの少しだけ丁寧に過ごしましょう。外に出るときはマスクや眼鏡で顔を守り、帰ったら手洗いと洗顔で花粉を落とす。洗濯物は室内に干して、部屋の空気を清潔に保つ工夫をする…など、そんな小さな積み重ねが、春を心地よく迎える助けになります。

雨水の頃は、春と冬がまだ同じ部屋に座っているような季節、食事も気をつけましょう。この時期、体を整える助けをしてくれる食材としては、ビタミンやミネラルが豊富なナノハナ、新タマネギ、ワカメ、イチゴなどがあります。いずれも簡単な調理法で手間をかけずにいただけるので、旬の食材の柔らかな力を借りて、ゆっくりと春に馴染んでゆくと良いかもしれません。

穏やかな薄紫の花

玄関先には、去年友達からもらった小枝から、しっかり根付いたローズマリーがその枝ごとに穏やかな薄紫の花を付け、風にそよいでいます。

ローズマリー(Rosemary 学名Rosmarinus officinalis 現在の分類名、Salvia rosmarinus)は春の目覚めにぴったりのハーブです。早春から初夏にかけて、可憐な花を咲かせるこのハーブは、地中海沿岸が原産の常緑低木です。細くとがった深い緑の葉は触れるとすぐに香りたち、ほんの少しの風でもその香りが立ち上がるため、「風のハーブ」とも呼ばれることもあります。乾燥に強く、繁殖力も強いので、その生命力から、古くは魔除けや記憶の象徴として扱われてきました。

中世ヨーロッパでは薬草に詳しい女性たちが、近隣の人々の体調や心の不調をハーブを使って癒し助ける存在でした。彼女たちが扱ったハーブの中でも、ローズマリーは特別な位置にありました。香りが強く、空気を浄める、また、記憶や集中を助ける、と信じられており、病気除けや悪霊除けとしても使われたと言われ、それらが魔女の物語として伝わったのです。

ローズマリーの精油

ローズマリーは西洋文化の流入とともに入ってきた“舶来のハーブ”です。明確な記録は多くありませんが、江戸時代後期〜明治初期にかけて日本へ伝わったと考えられています。伝来経路は複合的で、西洋医学や薬草学の書物とともにオランダ経由で紹介され、薬草園で試験的に栽培された可能性、また、西洋庭園式の園芸文化が日本に入ってきたことで、観賞用・香料用としてローズマリーが輸入され、広まったこと、さらに、ヨーロッパで儀式や祈りに使われていたため、キリスト教の宣教師が持ち込んだという説もあります。そして、昭和後期〜平成にかけてのハーブブーム、アロマセラピーの普及により、一般家庭でも広く栽培されるようになりました。

 

ローズマリーの凛とした姿と可憐な花のハーブですが、その精油が持つ力はとても優秀で、アロマセラピーでは欠かせない一つです。覚醒作用は気分を切り替えたいときや集中したいときなどに効果的です。体を温める作用がありますので、体の冷えや凝りをほぐす作用が期待できます。とても素直な香りですので、他の香りとの相性も良く、ラベンダーやレモン、ユーカリなどとも香りを調整しやすい精油です。

何よりこの季節、この香りは鼻詰まりや鼻腔の不快感を取り除くのにとても効果的ですので、アロマポットなどを使って、お部屋に拡散することをお勧めします。単品で、またはお好みの精油とブレンドして、空気を春色に塗り替えてみませんか?

ハンガリーウォーター

私のお気に入りは、ハンガリーウォーターの物語です。ハンガリーウォーターとは、14世紀頃、ハンガリー王妃エリザベートのために作られたとされる、ヨーロッパ最古の香水、または、化粧水のひとつです。ローズマリーを主材料にしたもので、「若返りの水」として人気を得ました。王妃は、そのハンガリーウォーターを長年愛用し、70歳を過ぎても若々しく、隣国の王に求婚された、という逸話が残っています。私も庭のラベンダーやペパーミント、セージなどのハーブを使って、ハンガリーウォーターを作ります。毎年の出来具合が微妙に違い自然の揺らぎを楽しめます。

 

今年のハンガリーウォーターはどんな香りを運んでくれるのでしょうか?私のローズマリー、元気にすくすく伸びて、他のハーブやレモンピールたちと綺麗な瓶に納まる日を楽しみに、明日はたっぷり水をあげましょう。

 

皆様はローズマリーの香りに何を思い出すでしょう? そして、明日はどんな香りと出会えるでしょう。

どうぞぐっすりお休みください。

 

染谷雅子

 

ナイトアロマランプ

 

ガラス作家・アロマセラピスト 染谷雅子

ギャラリーはなぶさ https://www.hanabusanipponya.com

作品名:「ナイトアロマランプ」