暑い。酷暑、猛暑、炎暑、極暑、激暑、盛暑、溽暑…、暑さを表す言葉はまだまだあります。それぐらい、日本人は暑さに耐えて生きてきたようです。でも、この暑さの背後には秋が控えています。二十四節気は、暦の上では秋がやって来る、立秋(りっしゅう8月7日)を迎えます。七十二候は、日暮れ頃にふと吹いてくる涼しい風に季節の移ろいを感じる、涼風至(すずかぜいたる8月7日~11日頃)、賑やかに鳴いていたセミの声は、いつしかもの悲しい響きを持つヒグラシと変わり、耳にも秋を感じる頃、寒蟬鳴(ひぐらしなく8月12日~17日頃)、朝夕は温度が下がり湿度の高い大気は霧となりたなびく頃、蒙霧升降(ふかききりまとう8月18日~22日頃)、と続きます。
まだまだ続く残暑の中にも、季節の移ろいと共に、控える秋を空気を伝わり感じる候となります。
暦の上では秋が始まる、とはいえ、暑さはまだまだ残暑として居続けます。特に今年の夏は、観測史上の記録となるような暑さが続いています。外では紫外線、屋内では冷房、そして台風などによる気圧の激しい変化など、環境ストレスにさらされる心身は疲弊し、活性酸素による悪影響を増やすことにもなります。さらに、身体の疲労と神経の高ぶりの均衡がうまく取れず、睡眠障害も起こりがちです。質の良い充分な睡眠でしか得られない身体と脳の機能改善も多くあります。睡眠時間を充分に取ることはもちろんですが、睡眠環境、たとえば室温の制御や寝具の選択も工夫してみましょう。
そして、やはり食事です。活性酸素による身体への悪影響を防ぐためには、βカロチンが豊富な、今が旬のモロヘイヤはぴったりの夏野菜食材です。滋養強壮野菜としても知られているもので、粘りの成分には胃壁の保護作用があり、消化不良や食欲不振の改善に効果的です。水に溶けやすい栄養素が多いので、茹で時間は短く調理しましょう。スープもお勧めです。私は最近、軽く茹でて、ミントやショウガなどと一緒に細かく刻んで味付けをして肉料理や魚料理のソースとして使うのが爽やかで好きです。ぜひ、お試しください。
良い睡眠を摂るために、就寝3~4時間前には夕食は終わらせることは大切です。ぐっすりと、良い夢を見るためには、夕食後、ちょっとお腹がすいても我慢して、ハーブティをいただくぐらいにしています。おかげで、せっかく楽しい夢を見たいのに、朝までぐっすり。でも、室温調整に失敗して、暑さで寝苦しさを感じる夜には面白い夢を見ます。あまり怖い夢や嫌な夢を見るということは少ないのですが…、いや、怖い夢も見ます。そう、演奏会当日、何の曲を弾くのかわからないのに、舞台袖にいておろおろしている自分とか、単位が足りなくて大学を卒業できないことが分かった夢とか…いまだに。
ただ、面白い夢は本当に面白く、書き留めておきたいぐらいなのに、あー、一番面白かった所を憶えていない、という。そこが夢の儚く面白いところ。
そんな、面白い夢の話を聴いてみましょう。フェリックス・メンデルスゾーン(Felix Mendelssohn1809-1847ドイツ)作曲、「真夏の夜の夢」(Ein Sommernachtstraum)です。この曲はシェイクスピアの同名の喜劇に触発されて、1826年、若干17歳のメンデルスゾーンが作曲したものです。当時は演奏会用の序曲として作曲され、その後、17年後、1843年に、プロイセン王の命により、劇付随音楽として完成されました。
ウィリアム・シェイクスピアが1595年に書いた喜劇「真夏の夜の夢」は古代アテネ近郊の森を舞台に、貴族の恋人たち、妖精のいたずら、職人たちの劇中劇、などが織りなす幻想的な芝居です。ヨーロッパの夏至の夜「Midsummer Night」は、聖ヨハネ祭前夜を指し、妖精が現れる神秘的な夜で、現実の秩序が一時的に崩れ、真実の愛が試される祝祭の時とも言われています。そんな夜に妖精パックがくり広げるいたずらに、貴族や職人、そして、妖精の世界までが掻き回され、最後に真実にたどり着くというお話です。
そして、メンデルスゾーンの「真夏の夜の夢」は単なる背景音楽ではなく、劇の登場人物や場面の感情、幻想的な雰囲気を音で描写する役割を果たしています。序曲は演奏会のオープニングに演奏されることがありますが、夜の森の雰囲気、妖精たちのささやき、恋人たちの会話、これから起こる物語のワクワクと、最後は、朝を迎え現実世界に戻る感じ、など、とても鮮やかな色彩を感じる音楽です。劇付随音楽、全12曲のうち、最も良く演奏されるものは「結婚行進曲」でしょう。そう、いろんなことがあって、最後に魔法も解けて結婚式が行われる、その結婚行進曲がこの結婚行進曲なのです。不思議な、楽しいお話です。ぜひ、この暑い夏の夜に、お話し片手にお聴ききください。
この物語には、最後に妖精パックの独白があります。物語全体を「夢」として語りかけ、幻想世界と現実世界の境界を曖昧にします。幻想は幻想のまま、夢は夢のまま、そんな、儚い余韻を残すよう。まるで、本当に夢のよう。もし、この曲を聴いたら、最後にそのセリフを思い出してみてください。
今日も眠りにつくとき、目覚めるとき、素敵な音が聴こえますように。
みなさま、ぐっすりお休みください。
染谷雅子
<参考>
パックの独白
日本語訳 意訳
もし我ら影法師が、皆様を不快にさせたならば、
それはただの夢だったと思ってください。
皆様は眠っていたのです、この幻想が現れた間。
このつたない物語も、夢に過ぎぬもの。
どうかお許しを。もしご寛容いただけるなら、
我らは誠意をもって償いましょう。
それでは皆様、おやすみなさい。
もし我らが友ならば、どうか拍手を。
ガラス作家・アロマセラピスト 染谷雅子
ギャラリーはなぶさ https://www.hanabusanipponya.com
作品名:「 ステンドグラス 風鈴 」