いよいよ、真夏の力あふれる時がやってきました。二十四節気は、梅雨も明け、隠すものなく太陽光線が降り注ぎ、気温が上がる時、大暑(たいしょ7月22日)を迎えようとしています。七十二候は、桐の花が次の年に咲くための蕾をつける頃、桐始結花(きりはじめてはなをむすぶ7月22日~21日頃)、草木にとっては恵みの湿度であり、人にとっては蒸し暑く過ごしにくい頃、土潤溽暑(つちうるおうてむしあつし7月28日~8月1日頃)、突然夕立のような大雨が降り、雨あがりには次の季節を思わせる風が吹く頃、大雨時行(たいうときどきふる8月2日~6日頃)と続きます。盛夏の暑さの中、自然はその大気中の水分を湿度や雨として、植物の営みを育み次の季節へ進む、そんな候となります。
梅雨を見送り、夏本番の暑さを迎えますが、すでに夏日が続くこの頃の気候に身体はすでに疲れ気味、という声。また、暑さの疲れは集中力や忍耐力、持続力など、精神的にも影響します。ここから続く暑さにも耐え得る体力を維持するためには、良く寝ることときちんと食べること、これに尽きるようです。栄養バランスの取れた食事を心がけることはもちろんですが、特にタンパク質の摂取に気を配りましょう。ついさっぱりした物に食指が動きがちですが、肉や魚も積極的に取り入れましょう。胃腸の働きの低下を招かないよう、就寝3時間前には食事は終わらせ、胃腸を休ませる時間も大切に。
火を使う肉や魚などの調理は、つい億劫になってしまいますが、ジッパー付きの耐熱保存バッグに塩こうじなどで下味をつけた食材を、鍋に沸かした湯の中に漬けて余熱で火を入れる調理なら熱源最低限で、冷蔵庫に数日間の保存もできるので便利です。
また、珍しい食材ですが、夏のジビエもお勧めです。一般的には秋冬が旬とされることが多いですが、この時期は赤身の力強さと滋味を味わえるので、さっぱりとした柑橘系や夏野菜のソースなどでいただくと、冷やしたワインにも良く合い、涼味と活力補給にぴったりです。ぜひ、お試しあれ。
いよいよ夏ど真ん中。でも、実は夏ど真ん中ということは、秋は近くまで来ているということ。夕立が去った後のヒヤリとした空気に袖なしの腕を撫でられると、お祭りはいつまでも続かないことを伝えられるようで、思わず気づかぬふりをしてしまうのです。だから、暑い、熱い、交響曲を聴きます。ブラームスの交響曲第1番。
一般的に、交響曲は4つの楽章で構成されているものが多く、まるで、起承転結を表すように劇的な効果を発揮します。各楽章の特徴は、第1楽章;主題の提示とその展開、力強く劇的で速いテンポ、第2楽章;緩徐楽章とも言われ、感情的で抒情的な雰囲気で、美しい旋律の展開、第3楽章;軽快でリズミカル、舞曲のようなメヌエットや速い速度のスケルツォ、第4楽章;壮大で力あふれ、提示主題の解決や開放の終焉。作曲家によっては、変則的な構成を採用することもありますが、それぞれの楽章を通して、交響曲として音の物語は語られるのです。
以前ヴァイオリンソナタで取り上げたことがあるブラームスですが、この「交響曲第1番 作品68」は交響曲作家としての遅咲きの第一歩で、着想から完成までに21年を要し、43歳(1876年)の時に初演されました。全楽章を貫く詩的な流れは、ハ短調からハ長調へと移り変わり、「闇から光へ」を象徴しています。彼はベートーヴェンの偉大さに圧倒され長年の試行錯誤を経た結果、この曲はそれを乗り越えた壮大な作品として、称賛されたのです。
私は交響曲の第2楽章が好きです。力強く1楽章で問題定義をした後、「とはいえ、実はね…」と言っているような、本音を言うのは2楽章なのでは?と思うのです。そのあまたある、いろいろな作曲家の第2楽章の中でもこの「ブラ1」のそれは特別です。きっと、一番好き。始まりの静かな問いかけに、何度も繰り返し尋ねて、確認してそしてため息をつくような情景から一転、不安に駆られる瞬間があり、また平安に。そして、終盤、にヴァイオリンのソロがあります。美しい静けさと優しさ、でも、芯のある旋律で安らぎを得て終わるのです。このソロパートはコンサートマスターが演奏するので表現は奏者に委ねられ、それぞれ解釈が異なり、聴き比べる楽しみもあります。いずれにしても表現力が求められる部分です。
こんな素敵な旋律を弾くにはどんな力がいるのだろう?どんな思いで弾くのだろう?緊張するのだろうな…、と、ずーっと思っていました。人生、あるんです、それを弾く日がやって来ることが。この夏、ブラ1に染まり、悩める日々を送っています。皆様もぜひ、熱く、穏やかで、爽やかで、希望に満ちた、この曲を聴いて、夏の暑さを乗り越えてくださいませ。
今日も眠りにつくとき、目覚めるとき、素敵な音が聴こえますように。
みなさま、ぐっすりお休みください。
染谷雅子
ガラス作家・アロマセラピスト 染谷雅子
ギャラリーはなぶさ https://www.hanabusanipponya.com
作品名:「 フュージンググラス 夏の帯留め 」