雨に打たれた満開の桜の木は水滴で重くなった花房を重たそうに揺らし、桜色は濃く映り、それも一興。雨が降り、気温が低かったおかげで、思いのほか長く楽しめた今年の桜でした。
二十四節気は穀雨(こくう4月20日)をむかえようとしています。春の終わりの雨には穀物に潤いを持たせ、恵みをもたらすと言われ、田植えや種まきの準備が進む時期となります。七十二候は、水辺のアシが芽を出し始める頃、葭始生(あしはじめてしょうず4月20日~24日頃)、すでに霜が降りることはなく、稲苗が育ち始める頃、霜止出苗(しもやみてなえいずる4月25日~29日頃)、ボタンが華麗な花を咲かせる頃、牡丹華(ぼたんはなさく4月30日~5月4日頃)、と続きます。
春の終わりを告げる恵の雨は土を潤し、植物の世界に再生と成長の兆しを与え、景色を夏へと誘うのです。
季節柄で生活環境が変わり半月あまり、不規則な食生活や睡眠不足、過労などが続いてしまっている、ということもあるでしょう。この時期の心身疲労を蓄積してしまうと、この後に続く夏を乗り切ることが辛くなってしまいます。そろそろ、外気も心地よく、軽い運動を常に心がけることをお勧めします。週に2、3回以上、30分以上のうっすらと汗をかく程度の、特に有酸素運動を取り入れて、身体の水分や血液の滞りを生じさせないようにしましょう。
体内の血液や水分を巡らせ、滞りのない身体を作るための旬の食材は、引き続き、新キャベツや新タマネギなどの春の力のある野菜、イチゴやナツミカン、そして、バナナも実は3月~6月頃が旬なのです。
そして、まさに今が旬なのはタケノコです。食物繊維やカリウム、亜鉛などが含まれていて、体内に停滞しているものを外に排出する成分が多く含まれています。また、タケノコの白い粉状の物質はチロシンというアミノ酸で、脳内神経伝達物質の合成を助け、集中力や意欲を高める効果があります。そして、低カロリー。今の季節にぴったりの食材ですね。
煮物や筍ご飯にも結構ですが、下茹でして細切りにしたタケノコを豚バラ肉で巻いて、酢豚のようにしていただくお皿が最近我が家では好評です。いろいろと工夫できるので、ぜひお試しあれ。
春と言えば入学式。今年は入学式まで桜が待っていてくれたので、近所の幼稚園や小学校の入学式は満開の桜の下で朗らかな様子でした。入学式はいつも晴れていたような気がします。何かが始まる4月というのは、希望の月でもあると同時に、やはり、新しく出会う人や新しい環境は知らないうちに緊張を生み、特に、大学の入学式の時は緊張して委縮していたようなことも覚えています。
以前にも登場の、ブラームス作曲の「大学祝典序曲」(Academic Festival Overture, Op. 80)は、彼が1879年にブレスラウ大学(現在のポーランド・ヴロツワフ大学)から名誉博士号を授与されたことへの返礼として作曲された作品で、1881年にブラームス自身の指揮により、初演されました。歌が入っているわけではありませんが、4つのドイツ学生歌を引用し、それらをブラームス自身の主題と合わせた構成が特徴です。
Wir hatten gebauet ein stattliches Haus:
「僕らは立派な学び舎を建てた」という意味の歌で、学生たちの団結や自由を象徴する内容。
Landesvater:
「祖国の父」というタイトルで、忠誠心や愛国心をテーマにした歌で、もともとは学生たちが皇帝や国への忠誠を誓う際に歌われていたもの。
Was kommt dort von der Höh?:
「そこの丘から何が来た?」という意味の歌で、コミカルな雰囲気を持つ学生歌で、新入生を歓迎する儀式に歌われた歌。
Gaudeamus igitur:
「いざ楽しまん」という意味のラテン語の歌で、学生生活の喜びや青春の儚さを歌ったもので、ヨーロッパ全体で広く親しまれている伝統的な歌。
これらのそれぞれ異なる背景やテーマを持ち、学生文化を反映した興味深い歌が、ブラームスの手によって巧みに組み合わされ、祝祭的でユーモアに満ちた序曲となっています。
この曲に出会ったのはラジオでした。大学講座の始まりの音楽としてで、何の曲かは知らず、ファゴットのメロディーが面白くて、軽快な曲だな、と思っていました。それを聴きつつ、勉強がはかどったかどうかは覚えていませんが⋯。始めて弾いたのはその何年か後、アマチュアのオーケストラに入ってからでした。「あれあれ?聴いたことあるな、うわぁ、大学講座の曲だ!それに、最後は小さい頃から日曜学校で歌っていた讃美歌だ!」と、びっくり。何かが始まるような予感を孕む出だしから青春を謳歌するような終末まで、ワクワクしながら弾いていました。
それまで、バイオリンの曲ばかり弾いていた私は、その外の世界を全く知らなかったので、管弦楽の曲に触れ、次々と新しく出会う音の雪崩に震えるほどの悦びを覚え、同時に、どんどん聴かなくちゃ、という、焦りも生まれました。老いるということを知らなかった若かった日のことです。
長い月日が経ち、去年久しぶりに演奏する機会がありました。世の様々を学び、出会い、知ったつもりのこの歳の「大学祝典序曲」でしたが、いやー、まだまだでした。新たに知ることばかりで、奥が深いのです。
大好きなブラームス、あの頃何かが始まった曲にまた出会い、弾き続けられている幸運と、これからもその幸せを守れるように、と思いました。
新しいことに触れ、迷いがあっても応援して鼓舞してくれる「大学祝典序曲」、ぜひ聴いてみてください。
今日も眠りにつくとき、目覚めるとき、素敵な音が聴こえますように。みなさま、ぐっすりお休みください。
染谷雅子
ガラス作家・アロマセラピスト 染谷雅子
ギャラリーはなぶさ https://www.hanabusanipponya.com
作品名:「 ステンドグラス パネル 白木蓮」