パジャマに着替えて…雫の力

2022.09.12

パジャマに着替えて…雫の力

毎年のことながら、真夏の太陽に照りつけられて過ごした、酷暑の記憶が薄らいでくると、夕方の涼風に、夏を恋しく思う、そんな頃。二十四節気は白露(はくろ9月8日)を迎えています。七十二候は、すでに、草露白(くさのつゆしろし9月8日~12日)、そしてこの後、鶺鴒鳴(せきれいなく9月11日~17日)、玄鳥去(つばめさる9月18日~22日)と、続きます。夕方から空気が冷え、朝には草木に白く輝く露が宿り、セキレイは鳴きはじめ、子育てを終えたツバメは南へと飛び去ってゆく、深秋への大気の変化と、それに伴う、動物たちの営みが表された候となります。

夕日と鳥

夏の置き土産、紫外線や冷房などの影響で、肌や髪の乾燥を感じていませんか?その乾燥は内側へも影響します。乾燥に弱い肺の機能が低下すると、いくら手入れをしても、肌や髪がかさついてしまいます。また、抵抗力の低下を招き、感染症を発症しやすくなってしまいますので、深秋から冬に向けての空気の乾燥に備えて、潤いを補うことが大事です。いつも気を付けて、水分を摂取することはもちろんですが、潤いを補う食材も日々の献立に取り入れましょう。
新豆が出始める黒豆。黒豆の煮汁はのどを潤し、咳止めにも効くと言われます。お正月のおせちのように甘味が強い黒豆も美味しいですが、砂糖を入れず、塩、しょうゆとみりん少々で煮た黒豆はご飯のお供にぴったりです。煮汁もお湯で割ったり、スープにしたりと、いろいろ工夫できます。

 

また、今が旬の新レンコンも、肺を潤す野菜として取り入れたい食材です。レンコンのビタミンCは熱を加えても壊れにくいのが特徴で、食物繊維も豊富ですので、温かい料理でたっぷりいただきましょう。

蓮根料理

雨の多い秋の始まりです。そして、一雨ごとに秋が進むようです。雨の音を聴きながら過ごしていると、その、音の変化から、雨脚の強さや弱さ、風向きや空の色を想像します。窓際によれば、雨粒が窓にあたり雨の強さを知ることができます。降り始めの弱い雨は、きれいな雫の形で窓にあたり、そのままガラスを伝い降りてゆきます。下に降りつくころには雫の形はなく、水のすじが残るのみ。だんだん雨脚が強くなると、もう、ガラスはただの雨すじの通り道だらけ。雨の下が雫。雫の一生のなんと儚いこと。

雨の窓

雨粒の形は涙の形、と思いますか?いえいえ、実は降ってくる雨の雫は下から大気の力で押されて、お饅頭のような形で降りてくるのです。日々の生活で見たことのある、調味料一滴や化粧水一滴のように、涙の形を確認できることもありますが、上空、かなたから落ちてくる雨粒が受ける大気圧は小さな雫を変形させます。雫の形は一滴の液体の濃度と体積や容積、落ちる高さのバランスで、涙型に形成されるのです。

鍾乳洞へ行くと観られる、いろいろな長さ、形のつらら状の柱も一滴の水のなせる業。地表から浸透してくる過程で、周囲の石灰岩を溶かし、洞窟の天井や壁にしみ出してくる地下水の雫により形作られるもので、鍾乳石といわれます。見ていると、一滴、また、一滴、と落ちる水滴。この一滴の中に含まれる少量のカルシウム成分が作り上げる景色。一般的には1cm成長するのに、70年以上かかると言われていますが、長く太く、地下水にぬれ、宝石のように輝くつららの成長過程を想像すると、光も音もないような洞窟の中の永い月日に、眩暈がするほどです。でも、最初は一滴の雫。

鍾乳洞

吉野川 その源(みなかみ)を訪ぬれば 葎(むぐら)の雫 萩(はぎ)の下露(したつゆ)

 

平安時代に詠まれた、藤原義孝の作であり、「大きな吉野川も、その源はわずかな雫であり露である」という意味です。そう、雫の力です。

 

そんな雫から、雨景色。雨の表現は様々ありますが、かのゴッホも感銘を受けたという、江戸時代、歌川広重作、江戸名所百景「大はしあたけの夕立」は、画面に斜めに走る無数の黒い線が雨を見事に表現していて、その中で突然の夕立に右往左往する人々の様子が生き生きと描かれています。そして、もうひとつ、小さい頃から大好きな、絵本、やしまたろう作「あまがさ」。誕生日にもらった赤い雨傘と雨靴がうれしいモモの心情が、色彩豊かな雨に表されています。子供にとって、雨降りは心躍る時。主人公が海外住まいという設定も、相まって、いつもワクワクする気持ちで本を開きました。

落ち葉_水

そんなわけで、秋の雨音も心地よいものです。

雫一滴、その一生を思いながら、今夜もぐっすりお休みください。

 

染谷雅子

 

 

 

ガラス作家・アロマセラピスト 染谷雅子
ギャラリーはなぶさ https://www.hanabusanipponya.com

作品名:「ガラスの雫」

ガラス作品_ガラスの雫

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