パジャマに着替えて…川辺の姫様たち

2022.04.25

パジャマに着替えて…川辺の姫様たち

花冷えのこの頃、風邪をひいていませんか?二十四節気は穀雨(こくう4月20日)を迎えています。七十二候は、葭始生(あしはじめてしょうず4月20日~24日頃)、霜止出苗(しもやみてなえいずる4月25日~29日頃)、牡丹華(ぼたんはなさく4月30日~5月4日頃)と、続きます。大地に潤いをあたえる春の雨は、水辺の葭(あし)など、さまざまな植物を芽吹かせ、成長させ、稲の苗も育ち始めます。すでに、霜が降りることもなくなり、田植えの準備が始まります。春の終わりから、夏の初めに大輪の花をつける牡丹(ぼたん)が咲きそろう、そんな、芽吹きと成長の時期を迎えています。

今年は特に寒暖差が激しいようですが、この時期は、冬の冷気団が弱まり、日本付近を低気圧と高気圧が交互に通過するようになり、大陸から次々と移動してくる、「移動性高気圧」に覆われます。そのため、日中の気温は上がりますが、夜間は気温が下がり、また、雲が広がり、雨が続くことなどがあり、日によって、または、一日の中でも、寒暖差が大きくなります。思っていたよりも寒くなり、風邪をひいたり、反対に、気温が高くなり、気づかぬうちに春の熱中症といわれるような、体調不良を招いたりと、思わぬ病気の種を持ち込んでしまいます。忙しい頃とはなりますが、ちいさな体の変化や気持ちの変化に気づけるよう、緊張を解いて、自身の様子に注意を傾ける時間を大事にしましょう。

緊張をほどくため、ゆっくりと、お茶をいただく時間を作るのも良いでしょう。立春から数えて88日目は八十八夜、今年は5月2日です。この日に摘んだお茶を飲むと長寿を得られると言われています。八十八夜とは雑節の一つで、二十四節気や五節句のほかに、季節の移り変わりを知るために設けられた、特別な暦日(れきじつ)です。春から夏へ移り変わる節目の日で、夏の準備や、特に農家では、種まきや茶摘みなど、農作業開始の基準となる日です。新茶を少し低い温度で時間通りに抽出して、お気に入りのお茶碗に注ぎ、その色、香りをまず楽しみ、そして、ゆっくり味わいます。ほっ、と肩の力が抜けて、疲れも溶け出すよう。五感で迎える、夏への出発です。

日本茶のほかにも、フレッシュハーブも、若葉鮮やかなこの季節は美味しくいただけます。ミントやレモングラスの摘みたての葉っぱに、無農薬の柑橘果実の皮や実などを一緒に抽出しても、爽やかです。さらには緑茶をブレンドするなど、楽しみ方は無限です。また、和ハーブのお茶はいかがでしょう。ヨモギやセリ、シソ、サンショ、ワサビなど、身近な、普段台所で使っているような葉っぱを使った、和ハーブ茶もほっと一息のお供になります。

小さい頃、この季節に、蓬(よもぎ)摘みに行きました。祖父母の家は多摩川の土手まで歩いて行けるところでした。毎年、「蓬を摘みに行きましょう」となると、お弁当とお茶道具を籠に詰めて、土手までみんなでお散歩です。毎年のことなのに、まずは祖母が、「これが蓬よ」と、摘んで見せてくれます。「こんなに大きくなったのはダメ」とか「こんなに小さいのはかわいそう」と教えられ、一つ摘むと「これは?」と祖母に確認に行き、合格した物だけが蓬籠に入ります。時々土筆(つくし)にも出会います。こちらは土筆籠へ。指先がうっすら緑色になり、若草の香りが移ったころには、蓬摘みにも飽きてきて、興味はシロツメクサへと移ります。絨毯のように広がる花々の中から、きれいに咲いている花を、茎を長く残して摘むのは、あの頃の私たちにはなかなか難しかったことを覚えています。子供の私たちが作る花冠は茎を割って、そこに次の花の茎を指して行く、という、でき上がりが細い、花もまばらな物でした。母や祖母が作ってくれる花冠は、茎を束ねて組み上げてゆくもので、太く、花が溢れるように連なり、美しい物でした。出来上がると、祖母から、祖母曰く「私の姫様達」に恭しく戴冠される宝物です。

家に戻ると、きれいに整えられた蓬はすり鉢であたって美味しい草餅になり、はかまを取った土筆は、お浸しとしてこんもりと盛られます。頃よく昼寝から目覚めた姫様達は、寝ている間にも握っていた、シロツメクサの花冠を被りなおして、春の味覚をいただくのです。小学生ぐらいまでの春の行事でしたが、今でも、天気の良い午後の土手の景色は、あの頃の指先に残る蓬の香りを蘇らせます。

そんな幼い頃の春の景色に想いを巡らせ、春の恵みの雨音を子守唄に、今夜もぐっすり、お休みください。

 

染谷雅子

 

ガラス作家・アロマセラピスト 染谷雅子
ギャラリーはなぶさ https://www.hanabusanipponya.com

作品写真は「春の気持ち」

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