いよいよ秋は深まり、一雨ごとの寒さの重なりは、来る冬の予告を受け取るようです。
二十四節気は、冷え込みが深まり、霜が降り始める頃、霜降(そうこう10月23日)を迎えます。七十二候は、ついこの前まで朝露を宿らせていた樹々の葉を、白く縁取る霜が幻想的に映える頃、霜始降(しもはじめてふる10月23日~27日頃)。安定しない大気の状態により、ぱらぱらと降りすぐに止むような通り雨に出会う頃、霎時施(こさめときどきふる10月28日~11月1日)。モミジやカエデ、ツタなど色づいた木々により、錦秋の秋となる頃、楓蔦黄(もみじつたきばむ11月2日~6日)と続きます。秋から冬へ移る大気の大きな動きが見せる色とりどりの自然の変化に、冬の訪れを感じる候となります。

朝晩の冷え込みが深まり日照時間も短くなる、この季節が入れ替わる頃は、精神的にも消極的になりやすくなる時です。そして、体も寒さに対抗するため体力を消耗して、疲れやすくなります。本格的な寒さを迎える前に、しっかりと栄養を摂って、体力を温存することをお勧めします。ちょうど新米も美味しいこの季節、米食の利点を考えてみましょう。
まず、米は炭水化物が主成分で、体内でブドウ糖に変換され、脳や神経系の活動を支える安定したエネルギー源になります。粒状の米は噛む回数が自然と増え、満腹中枢が刺激されやすく、食べ過ぎを防ぎやすく、また、パンや麺に比べて消化に時間がかかるため、血糖値の急上昇を防ぎ、その上、脂質が少ないので、過剰なエネルギー摂取を抑える効果があり肥満予防にもつながります。そして、小麦に比べてアレルギーを引き起こす可能性が低いというのも魅力です。さらに、米に含まれる成分は腸内環境を整え、免疫力を高める働きもあるとされています。…すごい!
新米の炊き立てご飯に勝るものがあるでしょうか?この季節にはこの季節の味方がいるのだな、と思います。主食としての米を大事に美味しくいただく日々に感謝です。

数十年前、この季節にウィーン旅行をしました。音楽仲間と一緒に音楽の都への旅は本当に楽しくて、音楽と絵画、そして食と酒、笑って、笑って、五感で手に入れた私のウィーンでした。主食はドイツ風の固く焼いた香ばしいパンかジャガイモでした。もちろん、美味しいんですよ。現地の空気でワインと一緒にいただくパンもジャガイモも。でも、この肉料理にご飯、美味しいだろうな…、なんて、思ったものです。今は便利に携帯できるご飯や海外での日本食の流行りなどで、米食も手に入る海外旅行ですが、あの頃の食文化により認識する異国人感覚も懐かしいものです。
さて、そのウィーンと言えば、やはり、音楽。オペラハウスでのグランドオペラやオペレッタ、ホールや教会でのコンサートを毎夜のように楽しみ、多くの作曲家の残した楽譜や楽器を見学したり、モーツアルトやブラームスなど偉大な作曲家の像を見に行ったり、と、音楽にまつわることでは事欠きません。多くの作曲家が過ごしたこの街には彼らの眠る墓も多くあります。ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン( Ludwig van Beethoven 1770–1827ドイツ)もしかり。

以前にも触れましたが、ベートーヴェンは22歳で故郷ボンから音楽の都ウィーンへ移住し、亡くなるまでの約35年間をこの地で過ごしました。もっとも有名なクラシック音楽曲として有名な、「運命」、《交響曲第5番 ハ短調 作品67》は、1807〜1808年に作曲され、1808年12月22日にウィーンで初演されました。
ご存じ、「ジャジャジャジャーン」で始まる冒頭の動機、この4音のモチーフは「運命が扉を叩く音」とも言われ、全楽章にわたって展開されます。1楽章の緊張感に対比させるような、2楽章の穏やかな美しい変奏曲、スケルツォとトリオの陰翳を映す3楽章、そして、勝利と歓喜を象徴する4楽章へと続くのです。暗から混沌を経て明へ。この構成は、様々な苦悩を経験し、歓喜へ至るベートーヴェンの人生観そのものを反映しているとされています。彼のウィーン時代は、音楽の革新という使命と、本人の身体的、精神的な問題が交差する時でした。「運命」はその象徴とも言える作品です。
ベートーヴェン以前にはこのように大胆な構成の交響曲というのは存在せず、この曲は、音楽史における転換点であり、後世の作曲家に多大な影響を与えました。そして、今、この時代でも人々に愛され勇気を与えてくれる曲として、もっとも有名なクラシック音楽の一つとして生き続けています。
冬の足音が聞こえて、ちょっと寂しくなってしまった晩秋の日は「運命」で元気をもらいます。何度聞いても、何度弾いても、嬉しくて、なにか新しい発見がある曲です。大げさなものではありませんが、小さな運命を教えてくれたりするのです。秋の夜長に、ぜひお試しください。

さあ、明日は、ベートーヴェンもきっと食べたはず、じゃがいものタルトでも作って、運命を聴いてみようかしら。あ、やっぱり新米かな…。
今日も眠りにつくとき、目覚めるとき、素敵な音が聴こえますように。
みなさま、ぐっすりお休みください。
染谷雅子

ガラス作家・アロマセラピスト 染谷雅子
ギャラリーはなぶさ https://www.hanabusanipponya.com
作品名:ステンドグラス「フュージンググラス チョーカー」

