寒さが深くなりました。
二十四節気は、一年中で最も寒さが厳しくなる頃、そして、二十四節気の最終節、大寒(たいかん1月20日)を迎えました。七十二候は、フキの花、フキノトウが咲く頃、款冬華(ふきのはなさく1月20日~24日頃)、気温が低くなり沢の水さえ厚い氷となる頃、水沢腹堅(みずさわあつくかたし1月25日~29日頃)、春の兆しを知り、ニワトリが卵を産み始めるころ、鶏始乳(にわとりはじめてとやにつく1月30日~2月2日頃)、と続きます。冷気が極まり、凍てつく空気が張り詰める一方で、春の気配が静かに芽生え始める時期、時を知り静かに動き出す自然を表す候となります。

底冷えがきりきりと体に響くこの頃、身体守るためには、冬に寄り添うようにゆっくりと過ごすことです。寒さが厳しくなった分、更に注意深く、冷気を取り込まないようにして、入浴時には芯まで暖まる時間を大切にしたいものです。入浴後の温度差にも注意です。そしてよく眠ること。冬の長い夜は体が静かに力を蓄えるための貴重な時間です。この時期は、ただ寒さに耐える季節ではなく、春へ向かうための準備時間、自分をいたわる小さな習慣が、穏やかな春を迎える素となることでしょう。
食事で中から温めることも、寒さを越える力となります。大寒卵は滋養があると言われ、縁起物でもあります。大寒卵とショウガを使った「ふわとろかきたまスープ」は仕上げに水溶き片栗粉でとろみをつけてふんわり、とろりと仕上げます。また、大寒卵の卵雑炊に、すりおろしショウガやネギをたっぷり入れていただくのも、冬の夜にぴったりの優しい味です。どちらも「ショウガで温めて、卵で滋養を補う」という組み合わせ。お試しください。

寒さは厳しく、冷たい風に肩をすくめていても、日の入りが遅くなったことに気づき、少し元気が出る夕方。聴こえてくる町内チャイムは「家路」。なんだか、ふんわりと体の力が抜けて、温かくなるような気がします。
「家路」がドヴォルザーク(Antonín Leopold Dvořák1841‐1904チェコ)の交響曲第9番〈新世界より〉の第2楽章であることを知ったのは、いつ頃でしょう?もう何度も聴いたことも弾いたこともあるこの曲ですが、いつも、この第2楽章は、心穏やかになり、そして、寂しさや切なさと憧れを想うのです。たぶん、大人になり、この曲が作られた背景を知りそんな風に感じられているのかもしれませんが、最初にこの曲に触れたのはバイオリンのお稽古で、ゆっくりできれいな曲だな、と思ったことを憶えています。そのあと、あちらこちらでこの旋律を耳にして、大人になってきたわけで、その時々で感じることが違ったはずです。
この曲は1893年にアメリカ、ニューヨークのカーネギーホールで初演され、大成功をおさめました。当時、ドヴォルザークはニューヨーク・ナショナル音楽院の院長として招聘され、1892年~1895年までアメリカに滞在していました。〈新世界より〉全楽章に、黒人霊歌やネイティブアメリカンの音楽とリズム、広大な大地と自然や都市のエネルギー、鉄道、など、滞在中に出会ったアメリカの体験や新大陸の風景が音のイメージとして巧みに織り込まれています。

第2楽章は、ホルンが語りかけるように奏でる、深い郷愁の旋律で始まります。どこか懐かしく、遠くの風景を思い出させるその音色は、ドヴォルザークがアメリカ滞在中に抱いた「故郷ボヘミアへの想い」を映し出しているといわれます。そして最後にまるで沈む夕陽と残る温もりのように、弦が和音を重ね語りかけ、イングリッシュホルンが再度、思い出す故郷を奏でます。まるで、新しい世界で知ってしまったことと故郷への思いが交錯するよう。
なんとなく、日本人の感性にも寄り添うような旋律は、懐かしさや恋しさのような切ない気持ちになります。この気持ちを音に乗せて届けるためにはどんな風に弾けばよいのかしら?と思うのです。実は今も格闘中です。この新しい暦に進むときに、この曲が弾けるのは幸せなことだな、きっと。ぜひこの曲で新しい春へすすむ、その温もりを感じてください。

音楽からは、様々なものを毎日もらっています。暖かさや冷たさ、嬉しさや悲しさ、怒りや恐怖、喜び、苦しみ…そして幸福。すべての力が音楽には備わっています。いわゆるクラシック音楽と言われるものにはその歴史と、それを伝えてきた人々の思いも潜んでいるわけで、その力はとても豊かなものです。どんな季節でも、状況でも、その音による空気の変化は音の波となってそっと触れてくれます。これからも、音楽のある毎日をどうぞお楽しみください。
そして、今日も眠りにつくとき、目覚めるとき、素敵な音が聴こえますように。
みなさま、ぐっすりお休みください。
染谷雅子

ガラス作家・アロマセラピスト 染谷雅子
ギャラリーはなぶさ https://www.hanabusanipponya.com
作品名:「雪の結晶ピアス つららピアス」

