一雨ごとに秋が深まります。
二十四節気は、草木に冷たい露が留まり輝く頃、寒露(かんろ10月8日)を迎えています。七十二候は、北から冬鳥の雁などが飛来する頃、鴻雁来(こうがんきたる10月8日~12日頃)、高貴に香り高い大輪の菊の花が咲き始める頃、菊花開(きくのはなひらく10月13日~17日)、少しもの寂しく、秋の訪れを戸口で告げる虫の声が聴こえる頃、蟋蟀在戸(きりぎりすとにあり10月18日~22日)、と続きます。深秋に向かうひんやりとした大気のなか、草木に宿る露は煌めき、鳥も花も虫もそれぞれの時計で季節を知り、時を告げる、そんな季節の移ろいを表す候となります。
残暑というにはあまりにも暦が進み過ぎていて、言い難いのですが、10月に真夏日を迎えるとは…。まだまだ一日の温度差が激しく、対応に苦慮します。軽いコートやマフラーなど、調整できるものを用意しておくことは必須です。ただ、さすがに過ごしやすくなり、睡眠時間が確保できるようになり疲労回復が期待できますし、食欲も戻って来たのではないでしょうか?あなたの体はあなたが食べる物で維持されています。旬の食材で身体を作るべく、秋の豊穣に感謝しつつ、きちんと食事を摂りましょう。
夏バテからの回復には、お肉でしょ。暑さが和らぎ、夏に比べて肉の水分が少なく肉質が良くなるこの時期は、牛、豚、旬の鴨など、様々な肉が美味しくなる季節です。赤身の牛モモ肉のステーキにソースはさっぱり柑橘系で、 付け合わせはいずれも旬の、菊花の酢のものなどいかがでしょう。そして、新米炊き立てご飯。秋の幸せ、お試しあれ。
食欲の秋と言えば、運動の秋、読書の秋、美術鑑賞の秋、音楽の秋…、と、夏の暑さから解放され、冬の寒さまではまだ少し猶予があり、いろいろなことに興味が持てるそんな季節が秋なのでしょう。そんな中、めくるめく幻想の世界に連れて行ってくれるのが、音楽と美術の融合、総合芸術のオペラです。
つい先日、オペラの演奏会がありました。オーケストラピットでバイオリンを弾いている私には舞台上の様子は見えませんでしたが、私たちが奏でる音楽にソリストや合唱の美しい旋律が重なり、とても心地よく幸せな気分になり、良い秋の始まりとなりました。
16世紀末のイタリアで発祥のオペラですが、現在に至り、いくつかの種類があり、それぞれに特徴があります。まじめで荘厳なオペラ「オペラ・セリア」、喜劇オペラ「オペラ・ブッファ」、フランス発祥の壮大なバレエ付きオペラ「グランド・オペラ」、喜劇と悲劇が混ざったドラマ的なオペラ「オペラ・セミセリア」、写実主義オペラ「ヴェリズモ・オペラ」、セリフと歌が交互に登場するドイツ語のオペラ「ジングシュピール」、などがあります。
オペラ・ブッファ、オペラ・セリア、グランド・オペラ、など、多彩に活躍した作曲家に、ジョアキーノ・ロッシーニ(Gioachino Rossini, 1792–1868イタリア)がいます。オペラ作曲家として活動した20年間に、39作のオペラを作曲し、イタリアオペラの黄金時代を築いた作曲家で、「オペラの天才」と称される人物です。代表作は、「泥棒かささぎ」、「セビリアの理髪師」、「ウィリアム・テル」などで、今も世界中で上演されています。きっと、序曲など聞いたことがあるのでは?
さて、このロッシーニ、37歳で「ウィリアム・テル」を最後にオペラ作曲から引退し、宗教音楽や室内楽、歌曲などの作曲に専念すると共に、美食家としても知られ、パリでサロンを開き、著名人を招いて音楽と料理を楽しむ場を提供しました。彼の料理へのこだわりは並外れており、トリュフやフォアグラを使った高級料理を好みました。ロッシーニ自身が考案したとも言われている伝説の料理「トゥルヌド・ロッシーニ」は牛フィレ肉にフォアグラとトリュフを添えたフランス料理で、彼の名を冠した高級逸品として、現在も世界の美食家たちに愛されています。
美食家の作曲家は多くいますが、ロッシーニは「音楽界の天才」から「料理界の伝説」へと、持ちうる創造力を別の舞台でも開花させた稀有な人物です。彼の料理哲学は「贅沢な素材を、芸術的に組み合わせること」だそうで、秋はまさにその理想にぴったりの季節です。彼が愛したトリュフやフォアグラ、濃厚なソースは、秋の食材と見事に調和します。ロッシーニの人生は、芸術と美食が豊かに交差する秋そのもののようです。
さあ、次のお休みにはパリのサロンにでもいる心地で、ロッシーニのオペラ序曲を聴きながら、じっくり秋の味覚に舌鼓とでも行きましょうか。皆様もぜひ。
今日も眠りにつくとき、目覚めるとき、素敵な音が聴こえますように。
みなさま、ぐっすりお休みください。
秋の食材 × ロッシーニ風メニュー
メイン料理
秋の「トゥルヌド・ロッシーニ」
基本構成
牛フィレ肉(厚切り)
フォアグラのソテー
黒トリュフ(スライス)
マデラ酒のソース
+秋のアレンジ
栗のピュレを添えて、甘みとコクをプラス
舞茸やポルチーニなどの香り高いキノコをソテーして付け合わせに
赤ワインと無花果のソースで、秋らしい深みを演出
前菜
カボチャのポタージュ・ロッシーニ風
滑らかなカボチャのポタージュに、フォアグラのムースを浮かべて
トリュフオイルを一滴、香りのアクセントに
デザート
洋梨のコンポートとブルーチーズ
ロッシーニはチーズも好んだ美食家。
秋の洋梨を赤ワインで煮て、ゴルゴンゾーラと合わせると、
甘みと塩味の絶妙なバランスに
染谷雅子
ガラス作家・アロマセラピスト 染谷雅子
ギャラリーはなぶさ https://www.hanabusanipponya.com
作品名:ステンドグラス「ウインドチャイム」