パジャマに着替えて…葦笛の踊り

2023.04.17

パジャマに着替えて…葦笛の踊り

すっかり春、と思って上衣を一つ脱いだ途端の雨。襟元を抑えながら春の青空を恋しく思う時です。でもそれは春の恵みの雨。穀物の種に潤いを与え、新しい命を芽生えさせる雨なのです。二十四節気は穀雨(こくう4月20日)を迎えます。そして、七十二候は葭始生(あしはじめてしょうず4月20日~24日)、霜止出苗(しもやみてなえいずる4月25日~29日)、牡丹華(ぼたんはなさく4月30日~5月5日)、と続きます。水辺には葭(あし)が目を出して水淵を彩り、稲苗がすくすくと育つ地にはもう霜が降りることもなく、牡丹の花は華麗にその蕾を開き始める、そんな植物の成長著しい候となります。

牡丹

華かに咲き誇る牡丹の花のように艶(あで)やかでいたいこの時期ですが、まだまだ引き続き気温は安定せず、その寒暖差から身体は緊張し、血行不良を起こしやすくなります。まずは、不用意に身体を冷やさないこと。そして、シャワーだけで済ませずにゆっくり入浴して、注意深く身体の様子を見ます。お風呂でリラックスする時間は心と体を解き放せる時間ですので、大事にしたいですね。顔の皮膚の様子はどうですか?この時期、思いがけず、乾燥が進んでいることがあります。お肌に合ったオイルやクリームなどを使って、湯船に浸かっている間に保湿のパックをするのも良い方法です。ぜひ、お試しください。

保湿クリーム

新しい緑が次々とあちらこちらで生まれて、日一日と緑の量が増えてゆくこの時期です。新たな命の始まりの瞬間に立ちあえるこの瑞々しい季節、春の雨に洗われた見る物すべてがくっきりと際立ち、その様は命の存在を声高に歌い合っているようです。庭では、静かに耳をすませば、植物や虫たちのしゃべり声や成長の音が聞こえてきそうです。近くの公園の水辺の景色も毎日変化します。水鳥たちはその変化を映す水面を優雅にすべり、すっかり枯れたように見えていた水淵の草たちはどんどん緑が濃くなります。

水鳥

まだ細い茎で浅い緑の小さな葦たちも次々に現れています。葦(あし、または、よし)は水辺に群生する多年草です。

「人間は考える葦である」とは、フランスの哲学家、ブレーズ・パスカル(17世紀)の言葉で、人間は大きな宇宙から見れば葦のようで、そよ風にもなびくような弱い存在ではあるが、「考える」ということができる偉大な存在である、という意味ですが、いやいやどうして、葦も毎年きちんと季節を知り、水辺で再生する能力はなかなか偉大なものだと思いうのです。

葦

そんな弱い物の代表として謳われてしまった葦ですが、実はしなやかで丈夫です。世界中の広い範囲に分布して、日本にも固有種があります。ギリシャ神話や日本でも古事記に登場するほど人の生活に結びついた長い歴史があります。現在でも身近なものでは葦の茎で作ったすだれは葦簀(よしず)として昔から使われていますし、茅葺(かやぶき)屋根の葺き替えに現在でも使われています。

また、楽器にも使われています。オーボエなどの木管楽器のリードとして使われることは承知のことですし、邦楽器の篳篥(ひちりき)も葦のリードを使っています。さらに、弦楽器製作では仕上げ時のやすりとして使われてもいます。歴史とともに文化に深くかかわっている葦なのです。なかなか偉大なものなのです。

葦簀

小さい頃にとても不思議に思ったことがあるのです。よく、バレエを見に連れて行ってもらいました。確か、初めて観たバレエは「眠れる森の美女」で、その美しさに虜になり、次に観たのは「くるみ割り人形」でした。すっかり、バレエ世界に魅了され、レコードを聴きながらその舞台を何度も思い出していました。第二幕でクララはおとぎの国へと誘われ、それぞれの地域にちなんだお菓子の精たちからもてなしをうけるのです。スペインはチョコレートの踊り、アラビアはコーヒー、中国はお茶、そして、ロシアはキャンディーと続き、そしてフルートの美しい曲は「葦笛の踊り」です。そこです。え、なんで、急に笛?何のお菓子?と不思議に思っていたのです。

バレエ

大人になりわかったことは、葦笛はフランス語ではMirlitonミルリトン、そして、そのミルリトンは、フランス、ノルマンディー地方の伝統菓子の名前でもあるのです。名産であるアーモンドのフィリングタルトで、なるほど、口にしたことがあります。ほろりと崩れるしっとりとしたアーモンドフィリングが上品な小ぶりで素朴な焼き菓子です。今は、「葦笛の踊り」を聴くとき、見る時、弾くときに、あのアーモンドの香りを思い出しながらその瞬間を味わっています。葦の笛、でも、やっぱりお菓子。

ミルリトン

さて、ミルリトンの味と香りを思い出しながら、優雅なバレリーナの夢を見られるようにと願いつつ、そろそろ眠りにつきたいと思います。

皆様、今夜もぐっすりお休みください。

 

染谷雅子

 

 

ガラス作家・アロマセラピスト 染谷雅子
ギャラリーはなぶさ https://www.hanabusanipponya.com

作品名:ピアス「春のざわめき」

ガラス作品_ピアス

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